WBCで大谷翔平から三振を奪った唯一のアマチュア・サラリーマン選手 チェコ代表、オンドジェイ・サトリアの今 (3ページ目)
リリーフ陣を揃えることが難しいチェコ野球では、先発投手の完投はめずらしくなく、長いイニングを投げて試合をつくる投手は何よりも貴重な存在である。サトリアも軟投派の多くがそうであるように、大きなケガもなく、確実に週1回の役割を果たしている。そして、のちにあの東京ドームで訪れる名場面を思えば、この投手転向が彼の人生を大きく変えたと言って間違いないだろう。
【地元の電力会社に勤めるサラリーマン】
前回のWBCでチェコの名が世界に登場することになるとは、野球ファンの誰も予想していなかった。この大会の予選には2012年から参加しているが、チェコはヨーロッパの中で、オランダやイタリアの「ツートップ」に次ぐ、ドイツやオーストリアと並ぶ第2グループに属する。
WBC予選では、北米のマイナーリーガーを集めたイギリスやイスラエル、さらにメンバーの大半をラテン系プロ選手が占めるスペインなどが立ちはだかり、国内リーグの選手でロースターを形成するチェコは、戦力的にどうしても見劣りしてしまう。
代表メンバーの多くは所属球団とプロ契約を結び、多少の報酬を受け取っているものの、それが生活の柱となるわけではなく、彼らは本業のかたわら野球に打ち込んでいる。
サトリアも地元の電力会社に勤めるサラリーマンである。
「日本では『エンジニア』なんて呼ばれているみたいだけど、実際はオフィスでパソコンと向き合う毎日だよ。シーズン中は月曜から金曜まで会社で勤務して、その後に野球の練習を2回行なう。水曜日はボルダリングもしているんだ。週末は試合だから、休みはほとんどないね」
そんな「アマチュア軍団」が奇跡を起こしたのは、2022年秋の予選だった。最後のひと枠を争う試合で、前回対戦時に7対21で惨敗したスペインを相手に、3対1で見事リベンジを果たしたのだ。その瞬間、サトリアの脳裏には、世界の一流選手と対戦する自分の姿が浮かんだという。そしてチェコは、本戦で日本と同じグループBに割り振られた。
著者プロフィール
阿佐 智 (あさ・さとし)
これまで190カ国を訪ね歩き、22カ国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆。国内野球についても、プロから独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌、ウェブサイトに寄稿している。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。
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