名審判・小林毅二が語る監督・長嶋茂雄の記憶 「選手の気持ちは大事ですから、簡単に引き下がるわけには...」 (2ページ目)
── そのシーズン、巨人に対して5勝2敗1セーブの今中投手と、前年オフに中日から巨人へFA移籍した落合博満選手との対決がありました。
小林 落合、コトーがホームランを打って、今中は5失点降板となりました。私が見てきたなかでナンバーワンの左投手は今中だと思っていますが、あの試合に関しては本調子ではなかった気がします。結局、試合は6対3で巨人が勝利し、リーグ優勝を決めました。
── 川相昌弘選手や斎藤投手、勝って最後にマウンドで歓喜のジャンプをした桑田投手、また中日投手陣をリードしていた中村武志捕手は、試合が終わった途端、みんな頭が真っ白になってしまって、あまり覚えていないと言っていました。
小林 それだけ全員が試合にのめり込んだ壮絶な3時間14分だったということでしょう。川相の本塁打らしき当たりが二塁打とジャッジされた"幻の本塁打"もありました。当時は"リクエスト制度"もありません。それに落合や立浪和義が負傷退場するなど、選手は心身ともにギリギリのところでプレーしていたのだと思いますね。私の審判人生において、一番のメモリアルな試合でした。
【長嶋監督2度の日本一に遭遇】
── この年、セ・リーグを制した巨人は日本シリーズで西武と対戦しますが、第1戦で小林さんは球審をされています。
小林 西武の先発が渡辺久信で、巨人は桑田でした。2回に桑田が清原和博からソロ本塁打を打たれるなど、6回4失点。シーズン中と比べると、明らかに調子はよくなかったですね。西武は7回にも田辺徳雄の満塁本塁打が飛び出し、11対0と圧勝しました。
── このシリーズ、巨人の3勝2敗で迎えた第6戦の試合前、「西武・森祇晶監督退任」のニュースが突如流れました。そして試合は巨人が勝利し、長嶋さんは監督となって初の日本一を達成しました。
小林 そんなことがあったのですか。我々審判員は、試合の背景などを先入観として持ちませんし、勝敗の要因や選手の技術の分析をしません。ストライク、ボール、アウト、セーフをジャッジし、常に公平中立の立場で"ゲームコントロール"に努めるだけですから。
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