祝・殿堂入り 愛弟子が語る「天覧試合」「王貞治の世界記録」をジャッジしたレジェンド審判員・冨澤宏哉の功績 (2ページ目)
── それはなぜでしょう?
井野 プロ野球の審判員は1年契約の厳しい世界でもあります。覚悟を試されたのかもしれませんね。思えば、富澤さん自身は「野球のプレーが下手だったから審判員を目指した」と言っていました。プロ野球選手経験のない審判員の草分け的存在ですね。球審でボールを交換する際、みずから投手に投げるのではなく、捕手に手渡していました。
【日本審判歴代2位の3775試合】
── 富澤氏で思い出される試合は何ですか?
井野 私がプロ野球審判員の世界に足を踏み入れた76年春、富澤さんはすでにプロ経験20年でベテラン審判員の域にさしかかっていました。何と言っても59年の巨人対阪神(後楽園球場)の天覧試合の左翼線審として、長嶋茂雄さんのサヨナラ本塁打に右手をグルグルと回した試合です。もっとも当時私は5歳で、リアルタイムで見ていませんし、うろ覚えですが......。その時の天皇陛下からの「恩賜の煙草」を富澤さんは大事に保管していて、見せていただいたことがあります。
── ほかにはいかがですか?
井野 77年、王貞治さんがハンク・アーロンを抜く通算756号本塁打を放った時は球審を務めていました。私はセ・リーグ審判員2年目でした。御本人も審判通算35年、3775試合のなかで最も印象に残る試合に挙げています。その王さんが、今回、殿堂入りしたイチローさんの06年WBCの思い出などを語った"ゲストスピーカー"として列席されていたのも何かの縁かもしれませんね。表彰式では、「こんな日を迎えられるとは夢のようだ。長生きしていてよかった」と、とびきりの笑顔でした。
── 表彰式ではそう言って左手を上げましたが、杖をついていなかったら、本当は球審のように右手を上げようとしていたのかもしれませんね。
井野 そうですね。それにしても、ほんと「プロ野球史の生き証人」です。93歳は、健在時で選出された人としては史上最高齢らしいです。そして、池田豊さん、二出川延明さん、中野武二さん、横沢三郎さん、島秀之助さん、筒井修さん、郷司裕さん、谷村友一さんに続く審判9人目の殿堂入り。審判通算3775試合出場は、岡田功さんの通算3902試合に次ぐ日本審判歴代2位の大記録です。
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