中尾孝義が振り返る大船渡高校時代の佐々木朗希 「速いけど空振りが取れない...ボールの質は吉田輝星のほうがよかった」 (3ページ目)
【ポイントはボールを上から叩けるか】
── 中尾さんは阪神でのスカウト歴も長いですが、スカウト目線で高校時代の佐々木投手を評価するとすれば?
中尾 見るポイントとしては「ボールを上から叩けるか」ということ。そのためには、下半身をうまく使えたり、胸がバッターのほうに向くのをなるべく我慢したり、ヒジを遠くで回したりといろいろな条件があります。上から叩くといっても、ヒジを肩よりも上げなければいけないわけではありません。逆に、ヒジを肩よりも上げるのはあまりよくない。肩と同じラインにヒジがあり、ボールをリリースする直前までそのヒジの角度をキープできるかどうかがポイントです。
キープできれば、体が左に傾いたとき必然的にヒジから先が上のほうに上がります。柔道の一本背負いのような形で体を回転させることが理想です。ヒジの角度をキープできずに早くヒジを伸ばしてしまうと、体が横振りになりスリークォーター気味になってしまうわけです。佐々木はそういう傾向があったのですが、プロ入り3年目くらいから球持ちがよくなって上から叩けるようになりました。
── プロ入り後の2年間で矯正できた?
中尾 2年目の途中から上から叩けるようになって、真っすぐにもスピンがかかってきたなと。吉井理人監督(当時はコーチの教え方がうまいんでしょうね。吉井監督と一緒のチームではやっていませんが、彼が評価されている話は周囲から伝え聞いていたので。
── 3年目くらいから上から叩けるようになったというお話がありましたが、3年目は4月に完全試合を達成しましたね。
中尾 相手チームも、2年目に登板していた佐々木よりもかなりよくなっていたので、びっくりしたと思うんです。「あれ? こんなによかったっけ?」という感じだったんじゃないかと。バッターが2年目の佐々木のイメージで対戦すると、真っすぐに対して振り遅れ、変化球に対しては泳がされてしまっていたはずです。キャッチャーもそれをやりたいからそういう組み立てにするわけですし、それができるようになったから完全試合を達成できたんでしょうね。
ただ、僕から見たら佐々木はもっとよくなると思います。彼が好不調の波が大きいのは、ヒジが早く伸びてしまい横振りになることが要因だと思っていますから。力んでしまうとどうしてもそうなりますし、体が早く開くとバッターからボールが見やすくなってしまいます。一番大切なのは、ヒジが伸びるのを我慢し、上から叩くことを常に意識できるかどうかです。
中尾孝義(なかお・たかよし)/1956年2月16日、兵庫県生まれ。滝川高から専修大学、プリンスホテルへと進み80年ドラフト1位で中日へ入団。1年目から116試合に出場し、2年目には正捕手となり打率.282、18本塁打、47打点で8年ぶりのリーグ優勝に貢献。同年はオールスターにも出場し、セ・リーグの捕手として初めてMVPに輝いた。89年にトレードで巨人に移籍。開幕からマスクを被り、斎藤雅樹のシーズン20勝を陰で支えた。92年に西武へ移籍し、翌年に現役を引退。引退後は台湾リーグも含め、多くの球団でコーチとして指導。2017年3月に専大北上高の監督に就任し、19年11月まで務めた。現在は評論家として活躍している
著者プロフィール
浜田哲男 (はまだ・てつお)
千葉県出身。専修大学を卒業後、広告業界でのマーケティングプランナー・ライター業を経て独立。『ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)』の取材をはじめ、複数のスポーツ・エンタメ系メディアで企画・編集・執筆に携わる。『Sportiva(スポルティーバ)』で「野球人生を変えた名将の言動」を連載中。『カレーの世界史』(SBビジュアル新書)など幅広いジャンルでの編集協力も多数。
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