【プレミア12】井端ジャパン4連勝でスーパーラウンド進出 絶体絶命のピンチで見せた藤平尚真の成長の証 (3ページ目)
コスメが打席に戻ると、6球目、佐藤が選択したのはフォークだった。藤平は頷くと、ウイニングショットをいつもより浅く握り、右腕を思い切り振る。142キロのフォークは鋭く落ち、コスメのバットに空を切らせた。
「(プレミア12での)毎試合、フォークが本当にうまいこと決まっていたので、その感覚がすごくありました。今日は雨、風でボールが抜けたり、引っかけたりしていて、ちょっと嫌な感じはしたんですけど、フォークは絶対に使わないといけないボール。どこかで絶対に一発で決めてやろうという気持ちはあったので、それが一発で決まってよかったです」
絶体絶命のピンチをしのいで勝利を手繰り寄せた直後、藤平は思わず座り込んだ。厳しい状況に置かれたなか、胸の内が透けて見えるような仕草だった。
「まずは絶対ゼロで帰りたいと思っていたので、ホッとした気持ちでした。あとはここをゼロでしっかり押さえるという気持ちが強かったので、(ゲームセットで)気持ちがちょっと切れた感じがして。でも、すごくいい経験ができているなって感じています」
10月末の宮崎合宿から藤平を取材していて感じるのは、ポジティブシンキングと、日本代表の中継ぎを任されている責任感、そして成長への貪欲さだ。最終回を任されたキューバ戦は1点も与えられないプレッシャーに加え、強い雨と風、粘度質のマウンドなど苦しい状況だったはずだが、それでも試合後に口をついて出るのは前向きな発言ばかりだった。
「正直(スパイクを)たたいても、足をならす道具を使っても土が取れなくて、ずっと重いスパイクを履いている感覚で投げていました。そこは練習ではどうにもならないところだと思います。でも、本当にこういう経験をできてよかったなと思います。(次に)もしこういう経験があったら、今日のことを思い出して投げられるかなというぐらいの感覚でいました」
1点リードの一死満塁、絶体絶命のピンチ。力強いストレートを高めにつづけ、最後の最後でフォークを落として侍ジャパンに勝利をもたらしたのは、藤平の前向きなピッチングだった。
著者プロフィール
中島大輔 (なかじま・だいすけ)
2005年から英国で4年間、当時セルティックの中村俊輔を密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『山本由伸 常識を変える投球術』。『中南米野球はなぜ強いのか』で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞。内海哲也『プライド 史上4人目、連続最多勝左腕のマウンド人生』では構成を担当。
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