江川卓と高校時代に対戦した篠塚和典はショックを受けた「この球を打たないとプロには行けない」 (2ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

 作新学院時代の江川は、183センチの身長と"馬尻"と呼ばれた大きい尻が目立ち、高校生のなかにひとり大人が混じっている感じだった。かつて横浜高の監督を務めていた渡辺元智は、甲子園でいろいろな選手を見てきたが、そのなかで別格だった球児はふたりいたと話してくれたことがある。それが江川と、星稜の松井秀喜だった。まさに高校生離れした圧倒的な雰囲気を持っていたという。

 江川の高校時代について、篠塚が半世紀前のことを感慨深く話す。

「高校1年の春に山梨で開催された関東大会準々決勝で作新と銚子商が対戦し、初めて江川さんの球を打席で見た時はショックでした。『こんな速いボールがあるのか......』っていう感覚でしたね」

 それでも篠塚は2打席目で、センター前に落ちるヒットを放っている。1年生で江川の球をヒットにしたのは、篠塚が初めてだった。江川は篠塚とは理解していないまでも、スタメンに1年生がいることは知っていた。

 篠塚にとって江川からの初ヒットは、運よくポトリと外野の前に落ちただけで、次に放ったヒットこそが正真正銘の当たりだと思っている。

「関東大会の時は、自分のタイミングで打とうとすると『ズドーン』と来たので、めちゃくちゃ詰まりました。この速い球を打たないと、プロには行けないなと思いましたね」

 江川と篠塚の2度目の対戦は、作新学院のグラウンドで行なわれた練習試合。ダブルヘッダーの2試合目に江川は先発した。その試合で篠塚は見事にセンター前にヒットを放っている。尋常じゃない速さのストレートへのタイミングの取り方を、バッターボックス内で修正してアジャストしたのだ。

 当時、高校球界の超名門だった銚子商に入学して、すぐにレギュラーを獲った篠塚。それだけでもすごいことなのに、江川に対して打席内で修正してヒットを放つなど、すでに才能の片鱗を見せつけていたわけだ。

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