「スーパーカートリオ」屋鋪要が証言 「江川卓さんはランナー無視ですから、余裕で走れるわけですよ」 (3ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

 プロに入ってからつくり上げた左打ちは、手元で微妙に変化する球に対してバットがうまく順応できない。やはり生まれ持った右利きの感覚と同じにはなれなかった。屋鋪ほどの選手でさえそう思うのだから、プロに入ってスイッチに転向することがどれだけ難しいのかがわかる。

【クイックも牽制もしない】

 そして屋鋪と言えば、86年から3年連続盗塁王に輝いた足だ。

「ジャイアンツ戦はよく盗塁をさせてもらいました。ただ、西本さんは牽制がうまかった。それにセットポジションで制止するか、しないかの寸前でピュッと投げる。そのタイミングがわからなかった。クイックも使っていたし、牽制のターンも速かった。

 その点、江川さんは失礼だけど、ランナーを出してもバッターを抑えればいいというタイプの投手で、クイックはやらない。江川さんが投げている時の盗塁成功率は100%に近いんじゃないかな。ランナー無視ですから、余裕で走れるわけですよ。逆に、どれだけ自分の右腕に自信があったってことですよね。西本さんは別として、巨人の投手は全体的に盗塁しやすかったです」

 現役時代の江川は、ランナーが出てもクイックも牽制もしない。とにかく盗塁されても、点を取られなければいいだろというスタイルだった。江川曰く、「一塁ランナーがいると集中できないから、だったら走らせてしまえばいいと思っていました」と堂々公言している。だがランナーが二塁に進むと、途端にギアを上げて打者をキリキリ舞いさせ、威風堂々とベンチに戻る。

 そんな姿を見ていた後輩たちは、「江川さん、カッコいい」となり、みんなが真似をする。投手コーチは江川に「みんなの手前、頼むらかクイックをやってくれ」と言ったらしい。

 いずれにしても、相手球団からすればいくら二塁にランナーを進めても、そこからの攻略法がない。だからこそ首脳陣は「高めを振るな」としか言わなかった。いや、言えなかったのだ。

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