元巨人広報が明かす松井秀喜の素顔「不調の時でも、メディアから逃げたことは一度もなかった」 (2ページ目)

  • 木村公一●文 text by Kimura Koichi

── 質問者にあわせたリップサービス?

香坂 というのも、入団当初はほんと質問者を困らせるような受け答えも多かったんです。「目標とする選手は?」と聞かれても「とくにいません」とか、「今の巨人をどう見ている?」みたいな質問にも「いえ、とくにすごいとは思いません」というように素っ気ない。そんな取材対応のなかで、「時計集め」って出てきたんで、本当かなと思って聞いたわけです。ただ驚いたのは、それ以後、時計集めなんてひと言も言わなくなったんです。

── つまりプロに入ってまだ間がなく、自分になにを求められているか、どう主張すべきか、戸惑っていた時期ということですね。

香坂 断言はできませんが、自分がどうあるべきか、いろいろと考えていたことは間違いないでしょう。こんなこともありました。ある時、「お金は大事だよね」って話になったんです。そりゃ大事だけど「なぜ?」と聞いたら、「将来のためにも」って。たしかにそうかもしれないけど、ものすごい注目を浴びて巨人に入った期待のホープ、将来の4番打者ですよ。誰が見ても疑いようのない素質を持った若者が、将来を切り開いていこうという時にお金の話なんてしなくてもいいんじゃないかと言ったら、彼はそれ以来、一切お金の話はしなくなりました(苦笑)。

── 人柄というか、松井さんはものすごくふつうの人なんですかね。

香坂 ふつう?......そうかもしれない。やさしい男だと思います。ユーモアのある楽しいヤツだったなぁ。プレーヤーとして闘争心は強く、勝負に厳しく、抜群に記憶力がいい。そして陰の努力を惜しまない。

── じつにふつうの人だ(笑)。

香坂 でもね、巨人というチームに入って、毎日、数万人という観客のなかでプレーして、とくにプロ入りして間もない頃は打てない時期もあった。高校を卒業してから環境の変化に追いつくのも精一杯だっただろうし、考えだって追いつかなかったかもしれない。そのなかで自分を見失わず、あそこまで成長したのは、やはりふつうの人ではないですよ。

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