高山郁夫が長年のコーチ生活で感じた「プロは高い技術屋の集まり。そこそこの考え方や練習では名誉と財産は勝ちとれない」

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

高山郁夫の若者を輝かせる対話式コーチング〜第9回

 オリックスのリーグ3連覇など、数々の球団で手腕を発揮してきた名投手コーチ・高山郁夫さんに指導論を聞くシリーズ「若者を輝かせるための対話式コーチング」。第9回は「投手コーチとしての手法と覚悟」をテーマに語ってもらった。選手をじっくりと観察し、対話を重ねるなかで持ち味を引き出す"高山メソッド"の背景には、どんな信念があったのだろうか。

当時監督だった秋山幸二氏(写真右)と話し込む高山郁夫氏 photo by Sankei Visual当時監督だった秋山幸二氏(写真右)と話し込む高山郁夫氏 photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る

【ベンチ内では一喜一憂しない】

── ここまで投手コーチの仕事についてお聞きしてきましたが、高山さんがいかに「観察」と「対話」を大事にしてきたか伝わってきました。でも、なかには「選手に指導をしなければ......」と強迫観念に近い感覚で技術指導する指導者も多いように感じます。高山さんにはそんな危機感はなかったのですか?

高山 危機感は不思議とありませんでした。プロの契約社会は、ご存知のとおり結果がすべてです。指導プロセスも、コーチそれぞれの考え方があると思います。私は、そのチーム、選手に対して、当てはまると思ったことを信じてやりとおし、結果が出なければ契約解除を受け入れるという、いたってシンプルな考え方でした。だからこそチーム方針の理解と、選手とのコミュニケーションを大事にしてきました。

── 観察も対話も時間がかかるアプローチですよね。コーチとして「仕事をしている姿を見せなければ......」という焦りはなかったのでしょうか?

高山 私のなかでは、「今日は肩の開きが早かった」「テイクバックが背中まで入りすぎていた」「踏み込み足のヒザが割れて、体重が乗ってない」といった部分は、日々のコミュニケーションの範疇だと思っています。技術指導とは、選手からの精神面や技術面の不安、悩みを受けて初めて方法論を提案し、選手とともにベストな答えを模索することだと考えています。ただし、向上心を感じられない言動を繰り返す選手や、プロとしての目的を見失っている選手へのアプローチは大変難しい課題でした。

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著者プロフィール

  • 菊地高弘

    菊地高弘 (きくち・たかひろ)

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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