江川卓は「空白の一日」で日本中を敵にした 阪神→巨人へ金銭トレードを希望していたが最悪の事態が起きた (2ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

 つまり11月22日のドラフト会議がある前日の21日は、クラウンとの交渉権が切れ、浪人中の江川は自由に契約できるという解釈のもと、巨人が暴挙に出たわけだ。

 しかし、141条の「いずれの球団に選択されなかった新人選手」と明記している以上、江川は当てはまらない。133条の「日本の中学、高校、大学に在学し」は、共通認識として「在学していた者」と捉えていたし、この年の8月にプロ野球実行委員会で133条に「在学した経験を持ち」を、79年度から挿入することを決めていた。

 盲点を突いたと言われているドラフトの前々日に交渉権が喪失しフリーになること自体、スカウトに配慮したドラフトの予備日として設けられていると関係者は知っていた。まさに巨人は、都合のいいように拡大解釈し、悪用したのだ。

【巨人がドラフト会議をボイコット】

 日本中から非難を浴びたのは言うまでもない。巨人側が法律的に正当性をいくら声高らかに断言しても、野球協約は六法全書ではなく、野球界における大事なルールブックであり、法律と照らせ合わせるものではないことくらい巨人だってわかっている。それなのに法律を盾にして愚行を犯す。まさに「無理を通せば道理が引っ込む」ではないが、巨人は民法上において有効だと主張する。

 しかし、巨人寄りとされる鈴木龍二セ・リーグ会長が巨人を除く11球団で構成される実行委員会に諮り、満場一致で江川の登録申請は却下された。民法上は有効でも、プロ野球機構からは無効とされたのだ。

 これにより、さらに事態は紛糾した。巨人はドラフト会議をボイコットし、長谷川実雄代表はリーグ脱退も辞さないとまで公言し、社会問題にまで発展する。

 そもそも江川と巨人に対して、野球ファンや関係者が不快なイメージを持ったのは、クラウンにドラフト1位指名後の会見で、自民党副総裁の船田中代議士と代行役の蓮美進秘書といった政治家が介入してからだ。クラウン指名拒否からアメリカ留学の動向を見ていた名将・水原茂は、「政治家が介入したら、次に起こるのは法の抜け道探し」と断言し、そのとおりとなった。

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