10年目の斎藤佑樹を襲ったプロ野球人生最大の悪夢 「ファイターズが契約してくれる以上は自分にできることをやるしかない」 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta

 PRPというのは血液中の多血小板血漿(たけっしょうばんけっしょう)のことで、傷んだ組織を元どおりに治そうとする自己治癒能力を高める働きをしてくれます。自分自身の血液からPRPを採取して、それを患部に注射します。それだけならPRP療法ですが、もっと根本的な靱帯の治癒メカニズムを生物学的に呼び覚ますために、いくつかのアプローチを施しました。

 まず自己治癒能力を邪魔しないための患部の固定、成長ホルモンを分泌させるための効果的な睡眠、さらに靭帯の再生に必要な材料として靱帯を形成するコラーゲンを再合成するための必要な栄養の補給......そこにプラスアルファ、成長因子としてのPRPを注入するんです。つまりPRP療法の効果を増強するために、複数の治療を並立して施すというのが、僕がトライした新しい治療法でした。

【リハビリは楽しいイメージしかない】

 その治療法がよかったのかどうか、今の僕にはわかりません。ただ、野球における医療の世界の常識に疑問を投げかけるきっかけとなった治療法だとは思います。この治療法で靭帯の再生を活性化させながら、ある程度の修復が認められた時点で出力を上げずにヒジへ負荷をかけます。

 翌春のキャンプで100キロの球速で200球のピッチングをしたことにはそういう意図がありました。投げる刺激によって靱帯の再生を促すと同時に、これまでのフォームを見直して理想のイメージに近づけようと思っていたんです。

 腕の振りではなく体幹の回旋で球速を上げるために、力感なく投げることを意識する。この新しい治療法を取り入れて、2カ月で投げられるようになったアマチュア選手もいると聞きました。ほとんどの選手は半年ほどで靭帯はくっついてくれるというので、だったらその方法でやってみようと思ったんです。

 トミー・ジョン手術を受けてしまえば投げるまでに1年以上はかかりますし、それをしてしまえば、あの時の僕はもう野球は続けられません。その方法にかけるしかなかったんです。

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