10年目の斎藤佑樹を襲ったプロ野球人生最大の悪夢 「ファイターズが契約してくれる以上は自分にできることをやるしかない」 (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta

【新しい治療法を選択したワケ】

 この日の斎藤のピッチングは荒れに荒れた。先頭の八百板卓丸に初球のスライダーがワンバウンド。3球目のストレートをライトへ弾き返され、これがフェンス直撃のスリーベースヒットになる。続く加藤脩平にチェンジアップを続けるも、結局は甘いストレートをライト前へタイムリーを許して、1失点。イスラエル・モタにレフト線へツーベース、湯浅大にデッドボールを与えて満塁とし、ワンアウトから戸根千明に犠牲フライ、陽岱鋼にレフトフェンスを直撃されてさらに2点を失う。戸根にも陽岱鋼にも、フォークを叩きつけたワンバウンドがあった。斎藤はこの回を投げきることなく、交代──悪夢の20球だった。

 試合が終わって、病院に行くべきかどうか、迷いました。結局、明日になれば痛みは治まるかなと思ってそのまま帰宅しましたが、翌朝、右ヒジは痛いまま。歯を磨くこともシャンプーすることも辛くて、ある角度にヒジを持っていくと激痛が走るんです。これは今までの張りが抜けない感じとは明らかに違っていました。もう悩んでいる場合じゃないとハラを括って、ドクターに診てもらうことにしました。そこで最悪の診断を受けることになります。

 右ヒジの靱帯断裂......そう聞いた瞬間、「ああ、ここまでか」と覚悟しました。野球、やめなきゃいけないのかな、と思ったら、いろんなことが浮かんできました。もし野球をやめるとしたらどうするのか、続けるとしたらどうすればいいのか。だからドクターに「どうしたらいいですか」と訊いたんです。そうしたらいくつかの選択肢を出してくれました。

 切れている靱帯を再建するにはトミー・ジョン手術しかありません。でも、この手術を受けたら1年以上のリハビリが必要になります。僕にそれだけの時間的猶予がないことはわかっていました。だったら手術をせずに靱帯を再建する方法はないものか......ドクターは、新しい治療法に挑戦してみるのもいいんじゃないかと言ってくれました。それは、PRP療法という保存療法の確度をさらに高める新たな治療法でした。

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