WBC決勝で大谷翔平とぶっつけ本番でバッテリー 中村悠平は思った「あ、これはいける」【WBC2023】 (4ページ目)
「あの空振り、真っすぐに振り遅れていたんです。そういう時にスライダーでいくと逆に合いそうだなと......これは僕の直感ですが、そう感じました。で、真っすぐのサインを続けたら3球目がボールになって、4球目にまた空振りした。その空振りも振り遅れていました。これは真っすぐで押そうと5球目も続けたら、これが外れてフルカウントになっちゃったんです。
こうなったらトラウトとしては真っすぐの比重を高めるだろうなと思いました。これだけ真っすぐが来ていたら、また真っすぐかなと思うでしょ。それに初球のスライダーを見送ったときのトラウトは、打つ気が感じられない見送り方でした。そういう時は打ちに来ていないから軌道をしっかり見ていない。場面としてはホームランが最悪ですし、ここはフォアボール覚悟のスライダーでいこうと思ったんです」
リアルな現実を戦いながら、この時、中村は夢心地でもあった。
「だって、バッターにトラウト、ピッチャーに翔平、その後ろにはマイアミのローンデポ・パークの景色......最後、スライダーがキャッチャーミットに入るまではスローモーションのように感じました。あれ、とてつもないスライダーでしたよ。一瞬、トラウトのエルボーに当たるんじゃないかなと思ったほどです。そこからアウトコースのビッチビチのところに決まったんですから、とてつもない横曲がりのスライダーでした。天才が努力すると、こんなところまで行けちゃうんだなと思いましたね。キャッチャーマスク越しに見る景色は僕だけのものですから、ホント、あれは最高の景色でした」
クローザーの大谷がWBCの決勝で投げた15球──大谷の球を初めて受けた中村は、ストレートとスライダーだけで押し切って勝利をもぎとったのである。
著者プロフィール
石田雄太 (いしだゆうた)
1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。
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