WBC準決勝の舞台裏を城石憲之が振り返る「ロマンが結果につながる」栗山采配のすごさ【WBC2023】
「PLAYBACK WBC」Memories of Glory
昨年3月、第5回WBCで栗山英樹監督率いる侍ジャパンは、大谷翔平、ダルビッシュ有、山本由伸らの活躍もあり、1次ラウンド初戦の中国戦から決勝のアメリカ戦まで負けなしの全勝で3大会ぶり3度目の世界一を果たした。日本を熱狂と感動の渦に巻き込んだWBC制覇から1年、選手たちはまもなく始まるシーズンに向けて調整を行なっているが、スポルティーバでは昨年WBC期間中に配信された侍ジャパンの記事を再公開。あらためて侍ジャパン栄光の軌跡を振り返りたい。 ※記事内容は配信当時のものになります
第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で栗山英樹監督率いる侍ジャパンは、2009年以来14年ぶり3度目の優勝を果たした。準決勝では村上宗隆のサヨナラ安打で劇的な勝利を挙げたが、そのシーンにはさまざまなドラマがあった。侍ジャパンの内野守備・走塁兼作戦コーチとして栗山監督を支えた城石憲之コーチが振り返る。
栗山英樹監督(写真右)の参謀として侍ジャパンを支えた城石憲之コーチ photo by Kyodo News
【自信満々に「ハイ」と言えなかった】
1点ビハインドの準決勝、9回裏ノーアウト一、ニ塁で、もしムネ(村上宗隆)に代打を送るとしたら、それは簡単な決断ではなかったと思いますが、作戦としてはバントをさせて形をつくるというのが、僕のような凡人の発想です(笑)。
だって日本で培ってきた野球の歴史を考えたら、点が入らなくてもバントしてランナーを先に進める形をつくりましょう、最善を尽くしてダメだったらしょうがない、という発想になりがちですからね。
もし打たせてゲッツーで点が入らなかったら叩かれますし、ここで打たせるかどうかというところは、監督のロマンに関わってくるんです。シビアに考えてムネを代えてマッキー(牧原大成)にバントさせるか、ムネに打たせてロマンを追うか......そのロマンがちゃんと結果につながっちゃうところが、栗山監督のすごいところです。
えっ、マッキー、バントが苦手だって言ってるんですか。僕にはうまそうに見えていたんだけどなぁ(笑)。だから代打でバントならマッキーしかいないと思って準備をするよう伝えたら、たしかに彼は「無理です、ヤバいです」って不安そうでした。
とにかく安心させなきゃと思って「ピッチャーは外国人だから牽制はうまくないし、セカンドランナーも足が速い大谷だからゴロさえ転がせば成功するよ」なんて、さしたる根拠のない励ましをしていましたね。たぶん、マッキーの耳には入っていなかったと思います。
だから栗山監督に「牧原、大丈夫だよね」と聞かれて、自信満々「ハイ」と言えなかったのかもしれません。「......ハイ」って、返事をするまでに一瞬の間があったらしくて、その不安を監督に見抜かれていたようです。監督が「ムネに任せる」と言ったのはその直後でした。監督ってすごいですよね、あんなに緊迫した場面だったのに、僕の返事ひとつで瞬時に判断して......まぁ、僕の演技が下手だったから悪いんですけどね(笑)。
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プロフィール
石田雄太 (いしだゆうた)
1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。