検索

西武・中村剛也の走塁術は「打球判断と状況判断のうまさが想像を超えていた」 ヘッドコーチ・平石洋介が語る「走魂」の成果 (4ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki

【トライしたことは次につながる】

 西武の走塁の成果は、数字にも表れた。

 チーム盗塁数はパ・リーグ2位の80。打球判断や思いきりのよさも大きな要因となるスリーベースヒットも2位の21本を記録した(ともに1位は楽天)。

 平石はこれを「共同作業」と称する。

「ランナーにも役割があるんです。『自分にできることは何か?』と考えて走ることが大事じゃないかと。盗塁ならトノ(外崎修汰)がすごく意欲を見せてくれたり、(鈴木)将平だったら、足はそんなに速くないけどバッテリーの配球を読んで仕掛けたり。それぞれが自分のスタイルを理解し、共同作業できたことがすごくよかったと思います」

 外崎は30歳の年でキャリアハイの26盗塁を決め、鈴木は10盗塁の成功率が10割だった。入団から2ケタ盗塁を継続していた源田にしても、例年より大幅に減らす5盗塁だったものの走塁で相手に脅威を与えた。

 ソフトバンクの周東佑京やロッテの和田康士朗のようなスペシャリストはいない。それでも西武は束になって走り、彼らが所属するチームよりも足で上回った。

 トライした賜物。平石がそう断言する。

「走ることに関して言えば、いい方向に結果が出ることもありましたけど、ミスも多かった。でもね、今までトライしてこなかったことにみんな勇気をもってしてくれたっていうのは、絶対に次につながります。野球ってベストなことだけを考えても絶対に成功しない。その都度、最低限やらないといけないことを整理しながら、『いける』という場面でトライする。『好走塁と暴走は紙一重』と言われるくらいですから、ミスしてもいいんです。そこで検証して『次はこうしよう』とプレーで示すことが重要なんですよ」

 オレは走れないから。ミスしたくないから......西武は昨年の1年間で、そんなネガティブな姿勢とは無縁のチームとなった。

 2023年シーズンは5位。しかし、それは限りなくポジティブで、意義のある順位だった。

 西武の象徴、ライオンズブルー。青き閃光が相手に襲いかかる。前へ、先へ。目指すのはホームのみ。躓いても後退はしない。阻まれても挑む。ただそれだけだ。

 2024年、逆襲のシーズン。反撃の狼煙(のろし)は、すでに上がっている。

後編につづく>>


平石洋介(ひらいし・ようすけ)/1980年4月23日、大分県生まれ。PL学園では主将として、3年夏の甲子園で松坂大輔擁する横浜高校と延長17回の死闘を演じた。同志社大、トヨタ自動車を経て、2004年ドラフト7位で楽天に入団。11年限りで現役を引退したあとは、球団初の生え抜きコーチとして後進の指導にあたる。16年からは二軍監督、18年シーズン途中に一軍監督代行となり、19年に一軍監督となった。19年限りで楽天を退団すると、20年から2年間はソフトバンクのコーチ、22年は西武の打撃コーチとなり、23年に西武のヘッドコーチに就任した。

著者プロフィール

  • 田口元義

    田口元義 (たぐち・げんき)

    1977年、福島県出身。元高校球児(3年間補欠)。雑誌編集者を経て、2003年からフリーライターとして活動する。雑誌やウェブサイトを中心に寄稿。著書に「負けてみろ。 聖光学院と斎藤智也の高校野球」(秀和システム刊)がある。

フォトギャラリーを見る

4 / 4

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る