西武・中村剛也の走塁術は「打球判断と状況判断のうまさが想像を超えていた」 ヘッドコーチ・平石洋介が語る「走魂」の成果 (2ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki

 それは2023年から監督となった松井稼頭央の理念でもある。チームのカラーとして走塁を打ち出してはいたものの、このスローガンは言うなれば原点だ。平石や松井が言うように、ここには野球のすべてが詰まっている。昨年のキャンプ前、松井は選手たちの前でこう言った。

「野手だけじゃなくてね、ピッチャーも普段からやりきる、走りきる。これをシーズン最後まで完走させる。それが『走魂』や」

 原点回帰と変革を誓った昨シーズン、チームのスタートは順調とは言えなかった。源田壮亮がワールド・ベースボール・クラシックで右手小指を骨折した影響で治療に専念。主砲の山川穂高は不祥事が発覚し戦列を離れるなど、西武はシーズン序盤からベストメンバーで戦うことができなかったのである。

 それがかえって、チームを焚きつけた。

【当たり前のことを当たり前にする】

「戦力ダウン」という負を飲み込み、変革の旗手として走ったのが監督の松井である。

 先のソフトバンク戦で好走塁を披露した山野辺。2022年に高卒1年目ながら育成から支配下登録を勝ちとった滝沢夏央。軽快なフィールディングが持ち味のドラフト6位ルーキーの児玉亮涼。身長170センチそこそこの小柄な選手たちが、チャンスを与えた監督に報いようとサバイバルを繰り広げる。

 若き獅子が、眼を血走らせる。岸潤一郎、平沼翔太、西川愛也、長谷川信哉......呼応するようにほかの選手たちも出塁すれば爪を研ぎ、先の塁を見据えている。

 ベンチも選手を後押しする。外野守備走塁コーチの赤田将吾が分析を重ね、上質な走塁の実現をサポートする。コーチ陣ですり合わせたプランを監督の松井に提示し、理解を得る。そうして西武は一枚岩となっていく。

 一塁や三塁コーチャーズボックス、ベンチからも平石たちが「あそこはスチールできたぞ!」「いま隙あったろ!」と檄を飛ばす。

「無理無理!」

 苦笑いを浮かべながら、102キロのベテランが垂直に上げた手を左右に激しく揺らす。

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