守護神剥奪、サイドスロー転向...現役ドラフトでオリックスへ移籍の鈴木博志が語る紆余曲折の6年と新天地にかける思い (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 今オフはオリックスに移籍するための転居手続きなど、あわただしくならざるを得なかった。鈴木も「例年よりスローペース」と調整が遅れていることを認めている。それでも、その表情が明るいのは訳がある。

「毎日があっという間に過ぎていくんです。野球に集中しているからなんでしょうね。ボールの速い後輩も多くて、『なんでそんな球が投げられるの?』とめっちゃ聞いています。少しずつ感覚もよくなっていますし、まだまだ強さも出るはずなので」

 大阪・舞洲での自主トレ中、山下舜平大のキャッチボールに衝撃を受けた。ブルペンでの立ち投げを見ると、1月というのに150キロを超えている。鈴木は「こんなピッチャー、見たこともないですよ」とあきれたように笑った。

 それでも、プロ1年目のボールを取り戻せたら自分も負けない。そんな思いはないのだろうか。そう聞くと、鈴木は意外なことを口にした。

「タイプが違いますから、勝てるかどうかは考えないですね。それに、いい時のボールを『取り戻したい』という思いはまったくないんです。というより、体も変わっていきますから絶対にできません。今の体のバランスのなかで、一番強いボールを投げることを意識しています」

 現時点で鈴木がイメージする「最高のボール」とはどんなものか。そう聞くと、鈴木は苦笑交じりに言葉を紡いだ。

「そうだなぁ......ボールの軌道のイメージはあります。インコースのストレート、とくに右バッターに対してより強いボールがいくイメージです。自分のボールはホップ成分が多くはないので、少しシュート系の真っすぐになるでしょうけど」

 プロでの6年間は、お世辞にも順風満帆とはいえなかった。それでも、必要な時間だったと鈴木はとらえている。中日ファンへの思いを聞くと、鈴木は言葉を選ぶようにしてこう語った。

「6年間では悪い時のほうが多かったですけど、そのなかでもすごく応援していただけたことが力になりました。苦い経験を含めて、それらを全部まとめて今のスタイルができてきたので、チームが変わっても完成させていきたいです。よりいいピッチングができるように頑張るので、これからも応援していただきたいですね」

 3月22日に誕生日を迎えても、まだ27歳である。剛腕・鈴木博志の全盛期はこれから幕を開けようとしている。

プロフィール

  • 菊地高弘

    菊地高弘 (きくち・たかひろ)

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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