NHKディレクターからBCリーグ監督へ 異色の転身を遂げた伊藤悠一が振り返った「前代未聞の1年」 (3ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • 写真●茨城アストロプラネッツ提供

「今年が勝負の選手と2年計画の選手では、同じことを言っても響き方がまったく違います。その選手が何を目的にしているのか、どういうスケジュール感で1日1日をすごしているのか。もっと言えば、これまでの経歴まですべてわかっていないといけない。そうでないと助言する際や、コーチ陣と情報共有するときに、間違った方向に行く可能性がある。大事なのは、その選手を理解すること。日々考え方が変わる選手たちなので、理解するためになるべく寄り添うようにしています」

 関わる人を伸ばすという意味ではNHKも独立リーグも同じだが、両者には大きく異なる点がある。在籍している人の質だ。

 NHKには社会で優秀とされる人材がやって来るのに対し、独立リーグは高校や大学でアピールしきれなかったり、ドロップアウトしたりした選手が夢を追い求めて来る。後者は月給10〜15万円程度で、一般的に25、6歳が挑戦のリミットだ。年齢を重ねれば重ねるほど、NPBから声がかかる可能性は低くなる。だからこそ、選手に関わる者たちの"人材育成力"が重要になる。

 独立リーグの選手たちの目標は、NPB球団から秋のドラフト会議で名前を呼ばれることだ。その意味で、アストロプラネッツに注目を集める右腕投手がいる。今年加入した22歳の村上航だ。北海学園大学時代に準硬式の野球部や硬式のクラブチームでプレーし、4年時はアメリカのサマーリーグなどで腕を磨いた。

 村上にとって大きな転機は今年6月、サイドスローに転向したことだった。オープン戦では練習生に降格させられるほど制球に苦しみ、伊藤監督は巽真悟投手コーチを交えて面談を行なった。この先、どうすればNPBを目指せるか。一緒に歩んできた道程を整理しながら先を見据え、村上自身が腕を下げる決断を下した。

 すると力強いストレートとキレのあるスライダーを投げるようになり、球団内で契約選手に昇格する。8月には自己最速の151キロを計測、巨人三軍との試合で好投するなど秋に向けて評価を高めている。「サイドスローで三振をとれる豪腕投手は魅力的」と評価するNPB球団があるかもしれない。

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