巨人と中日の「10.8決戦」を今中慎二が振り返る 落合博満の一打に「怒りがおさまらなかった」 (3ページ目)

  • 浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo
  • photo by Kyodo News

【落合の一打で冷静さを失った】

――先制のソロ本塁打を打たれたことですか?

今中 いや、2回の本塁打に関してはソロでしたし、ダメージはそれほどありませんでした。自分がインコースに投げ切らないといけない場面で真ん中寄りに投げてしまったことも原因ですし、仕方がないと割り切れたんです。痛かったのは、3回表に取られた3点目。落合さんに、今度はタイムリーを打たれてしまったのですが、自分に対しての怒りがおさまらなかったんです。

 2回表に2点先制された直後、2回裏に味方が同点に追いついてくれたのですが、そのタイムリーで再びすぐにリードを許してしまった。それと、落合さんに対してインコースを投げ切ることができて打ち取ったような打球だったのですが、ファーストの後ろに詰まった打球が飛んで、それがタイムリーになってしまったことが自分で許せなくて......。

 冷静さを失ってしまい、試合の記憶もほとんど飛んでしまったんです。3番の松井秀喜がバントをしたこととか(3回表にバントを決め、落合のタイムリーをお膳立て)、珍しいことなのに飛んじゃっていましたし。試合が終わってからその話を周囲の人に聞いて、「えっ、松井ってバントしたの?」みたいな感じでしたから。

――落合さんにタイムリーを打たれて、自分を見失ってしまった?

今中 僕も若かったからか、冷静でいられなかったですね。感情があまり表に出るタイプではないので、周りはわからなかったかもしれませんが、その3点目は引きずりました。

 4回表には村田真一さんと(ヘンリー・)コトーにそれぞれソロ本塁打を打たれてしまったのですが、それも後で言われてかろうじて思い出したほどです。自分を見失っていたんだと思います。試合の中で覚えていたことは、立浪和義さんが一塁にヘッドスライディングをしてケガ(左肩を脱臼)をしてしまった場面ぐらいです。

――今中さんは4回裏に代打を送られて降板されていますが、その後はベンチにいたのですか?

今中 ベンチには行かず、ロッカーでしばらく茫然としていましたね。自分に対しての怒りがおさまらず、「もうマウンドに上がれないんだな、もう終わったんだ」と。普段はそんなこと思わないんです。いつもだったら「ノックアウトされたら仕方がない。次に投げる時に頑張ろう」と切り替えるのですが、やはり優勝がかかった試合で次がなかったですから。

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