今季ブレイクの阪神・村上頌樹 なぜプロ入り前にスカウトから過小評価されていたのか (3ページ目)
あるスカウトが語ってくれた見解に、違和感があった。なぜなら、村上のうなりを上げてくるストレートをブルペンで見ていたからだ。当時、村上のピッチングは緩急の"緩"ばかり語られていたが、むしろギラっとした刃を秘めていたのは"急"のほうだった。
【5位なんて冗談じゃない】
2020年のドラフトで阪神に5位で指名されてから少し経った頃だったと思う。
「いくら故障が気になるって言ったって、5位なんて冗談じゃない。あんなに任せて安心できるピッチャーって、そんないませんよ。僕は桑田(真澄)のつもりで、村上を獲ったんだから」
そう語っていたのは、東洋大学の元監督である高橋昭雄氏(故人)だ。
四球を出さない投手は失点を計算できるから、指導者にとってこんなありがたい存在はない。何回までに何点とっておけばいいのか、ゲームプランが立てやすい。それに守っている時間が短いから、野手の心身の負担が小さく、打球に向かっていく姿勢や攻撃に勢いが増す。
ベルーナドームでの西武戦は、村上が8回を投げて4安打1失点、9奪三振、無四球の快投だった。試合時間も2時間36分と、3時間超えが当たり前となっている現代野球においては驚くべき短さだ。
村上のような投手が台頭してくると、連鎖反応として彼のようなピッチングをするアマチュア投手の評価が上がる。
事実、いま評価が上がっている投手が、明治大の村田賢一だ。正確無比なコントロールに、145キロ前後のストレートとカットボールとスライダー。さらに魔球のようなチェンジアップとの緩急。ピンチほどどっしり構え、厳しい攻めをする。身長は181センチと村上よりひと回り大きいが、ピッチングの本質はかなりの部分で重なる。
150キロを超すスピードボールで打者を豪快になぎ倒していくのも痛快だが、それだけではちょっと野球が単純すぎないだろうか。
だからこそ、村上のようなピッチャーが評価されると、少しずつ真っ当な流れになりつつあるのかな......そんな印象を持ち始めている昨今である。
著者プロフィール
安倍昌彦 (あべ・まさひこ)
1955年、宮城県生まれ。早稲田大学高等学院野球部から、早稲田大学でも野球部に所属。雑誌『野球小僧』で「流しのブルペンキャッチャー」としてドラフト候補投手のボールを受ける活動を始める。著書に『スカウト』(日刊スポーツ出版社)『流しのブルペンキャッチャーの旅』(白夜書房)『若者が育つということ 監督と大学野球』(日刊スポーツ出版社)など。
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