今季ブレイクの阪神・村上頌樹 なぜプロ入り前にスカウトから過小評価されていたのか (2ページ目)

  • 安部昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Koike Yoshihiro

 スライダーを右打者のアウトコースいっぱいからボール1つ、2つ分だけ外したり、打者の目の高さにストレートを通してスイングを奪ったり、フォークを真ん中低めから落としたり......。打者に気持ちよくスイングさせない術(すべ)を知っているのは、それを可能にするコントロール能力を持っているからだ。

【マウンドでの支配感】

 智辯学園時代の3年春、センバツで優勝投手になった時から「すごいな」と感心したのは、打者を圧倒するようなスピードでも球威でもなく、村上のマウンドでの支配感だった。

 身長180センチが珍しくなくない高校球界で、174センチの村上は小柄な部類に入る。だがマウンドでは身長の低さをまったく感じさせず、どんなピンチにも平然と「打てるものなら打ってみろ!」と言わんばかりの投球で、強豪校の選手たちを圧倒していた。

 あの堂々たるピッチングは、たしかな裏づけがあったからに違いない。その確固たる自信の源は、打者を見抜く洞察力とコントロールだった。このバッターには、どんなボールを、どこに投げておけば大丈夫......そんなストーリーを描けていたからこその、あの泰然自若ぶりだったのだ。

 高校卒業後、進学した東洋大で2年生の頃からエース格として投げていた時も、変な言い方だが、今と同じように頭のなかで描いたピッチングを忠実に再現できる投手だった。

 内から外、外から内......コースを変えた時に間違いがなく、速球から変化球、変化球から速球......球種を変えた時も投げ損じがない。

 また、いたって冷静に投げているようでいて、本気で刺しにいく二塁牽制球の突き刺さるような強さに、村上の秘めた闘争心を見たような気がした。

 以前、あるスカウトが教えてくれた「プロで働けるのは欠点のない投手」という経験則。もしそれが正しければ、村上はまさにそのお手本のような投手である。

 大学4年秋、右腕の肉離れによる離脱がなければ、その年のドラフトだって1位はともかく、上位指名は十分あり得ると思っていたが、スカウトの評価は意外なほど低かった。

「今の力量で勝負しなきゃならないピッチャーですよ。なんでもできるということは、今がピークと考えたほうがいい。体も小さいし、真っすぐにもう少し威力があればいいんですが......」

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