デッドボールで怒った清原和博に「お前が悪いんだから一塁に行け!」 松永浩美が挑発的な言葉を放った理由 (3ページ目)
【日本シリーズに出る清原に貸したグラブは「もういらない」】
――ちなみに、清原さんが中日との日本シリーズ(1988年)に出場する際、松永さんにグラブを借りたことがあったと聞いたことがあります。どんなやりとりがあったんですか?
松永 1988年のシーズンの終盤に、キヨが私のところに来たんです。西武球場だったか西宮球場だったかは覚えていませんが、阪急と西武の試合の時でした。「すいません、今度日本シリーズに出るんですけど......」って言ってきたので、まず「嫌みか!?」と返して(笑)。そうしたらキヨは、「セ・リーグの球場に行ったらDHがないので、たぶん他の選手がファーストを守ることになって、僕はサードを守らなきゃいけないんです。サードのグラブをお借りしてもいいですか?」と。
――チームメイトから借りることはしなかったんですね。
松永 そうみたいです。私も「西武はうまい内野手がいっぱいいるじゃん。何で俺に借りに来たの?」と聞いたんですが、「松永さんのグラブは(ボールが)入りそうな気がして仕方がないんです。飛んできたボールが吸いついていくような気がして」と言われました。
それって、いい表現なんです。私も野球教室で子どもに教える時、「ボールは"捕る"んじゃないよ。黙ってても"入ってくる"から」と伝えるんです。捕球体勢や、守備に対してしっかりした考え方がないと守備はうまくならない。「"ボールを捕ってる"と考えているうちは絶対に野球を理解できないよ」と話すこともあります。だから、キヨが言ったこともわからなくはなかったですね。
それでグローブを貸した時には、「親指と小指に力を入れて使ってくれ」と教えました。ただ、テレビで日本シリーズを見ていたら、キヨは違う使い方をしていたんです。
――それは伝えたんですか?
松永 日本シリーズが終わったあと、オフで会った時に話しましたね。「なんだ、あのグローブの使い方は」と。「お前の指が入って形が変わって俺の指に合わないから、もういらない。誰かにあげるなり、捨てるなり焼くなり好きにしてくれ(笑)」と言ったら、「えへへ......すいません」って。かわいいやっちゃな、と思いましたよ。
――微笑ましいやりとりですね。敵チームでありながら、清原さんはそこまで松永さんを慕っていたんですね。
松永 私は高校2年時に中退し、ドラフト外、練習生として阪急に入団しました。底から這い上がっていった選手なので、たとえば「ドラフト下位やドラフト外の選手が、ドラフト1位など華にある選手に対してどんな感情を抱いているか」という話もできるんです。
ドラフト上位の選手に対して「絶対に負けたくない」という気持ちを持っている一方で、「すごいな」という憧れや尊敬の気持ちもあるんだと。華のある選手ばかりが集まってくると、そんな話はできないじゃないですか。同じような環境から、プロの世界に入ってくるわけですから。
だからキヨも、ふだんはできないような話を聞くだけでもメンタルにゆとりができたのかな、という感じはしますね。
(中編:高校1年の清原和博の内野フライを見て「間違いなくプロにくる」 西武と巨人時代のバッティングの違いも語った>>)
【プロフィール】
松永浩美(まつなが・ひろみ)
1960年9月27日生まれ、福岡県出身。高校2年時に中退し、1978年に練習生として阪急に入団。1981年に1軍初出場を果たすと、俊足のスイッチヒッターとして活躍した。その後、FA制度の導入を提案し、阪神時代の1993年に自ら日本球界初のFA移籍第1号となってダイエーに移籍。1997年に退団するまで、現役生活で盗塁王1回、ベストナイン5回、ゴールデングラブ賞4回などさまざまなタイトルを手にした。メジャーリーグへの挑戦を経て1998年に現役引退。引退後は、小中学生を中心とした野球塾を設立し、BCリーグの群馬ダイヤモンドペガサスでもコーチを務めた。2019年にはYouTubeチャンネルも開設するなど活躍の場を広げている。
◆松永浩美さんのYouTubeチャンネル「松永浩美チャンネル」
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著者プロフィール
浜田哲男 (はまだ・てつお)
千葉県出身。専修大学を卒業後、広告業界でのマーケティングプランナー・ライター業を経て独立。『ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)』の取材をはじめ、複数のスポーツ・エンタメ系メディアで企画・編集・執筆に携わる。『Sportiva(スポルティーバ)』で「野球人生を変えた名将の言動」を連載中。『カレーの世界史』(SBビジュアル新書)など幅広いジャンルでの編集協力も多数。
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