侍ジャパンを世界一へと導いた「言葉なき二刀流采配」 なぜ栗山監督は大谷翔平を理想の形で使いきれたのか (5ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sankei Visual

「もし一塁へ出たら、翔平が走るんだぞ」

 それを大谷はわかっていた。言葉を交わさなくとも、栗山監督にはそれがわかる。

「相手ピッチャーのクイックなら、翔平の盗塁はかなりの確率で成功する。タイブレークで回ってくるかもしれないバッターの翔平を代えたくないからね」

 決勝の登板についても、投げてほしいということはいっさい伝えず、チームが勝つために自分が投げたほうがいいのではないか、という大谷の判断を待った。結果、大谷は投げる準備をした。優勝した直後、大谷はこうコメントしている。

「今日(決勝戦の登板)の準備の仕方も含めて、こっちに任せてもらったので、信頼してもらえているのがうれしかったです。そういうふうに信頼して、全部を預けてもらえたことによって、自分にできることに集中できました。すごく感謝しています」

 この世に存在しない大谷翔平のトリセツを、たったひとり持っていた指揮官。

 唯一、大谷翔平を取り扱うことができる野球人が日本代表の監督を務めていたからこそ、大谷を投打でフル回転させ、日本を世界一に導くことができたのである。

プロフィール

  • 石田雄太

    石田雄太 (いしだゆうた)

    1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。

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