侍ジャパンを世界一へと導いた「言葉なき二刀流采配」 なぜ栗山監督は大谷翔平を理想の形で使いきれたのか (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sankei Visual

 しかし事前にそのことを知らされたイチローは、王監督に手紙を書かせるなんてことはさせられないと、シーズンが終わったら必ず連絡する旨を伝えてもらう。王監督も手紙を書くのをやめてイチローからの連絡を待った。そしてイチローは11月末、王監督の携帯に電話を入れて出場の意志を伝えた。その時、番号通知をするのを忘れたというイチローが、非通知発信の着信に「もしもし、王です」と出たことを受けて「"世界の王"が非通知の電話に名乗って出ますか?」と、いたく感動していたのを思い出す。

 イチローがシーズン中に王監督からの手紙を拒んだのは、出場するかどうかを迷っていたからではなかった。むしろ前向きだったからこそ、その想いを聞くのは今じゃない、今、聞いてしまったらきちんと返事をしないわけにはいかなくなる、シーズン中はプレーに集中しているのでその余裕はない、という気持ちだったはずだ。

 この時のイチローが、昨年の大谷に重なる。

 時間を惜しんでシーズンに集中している大谷は、話を聞かされるまでもなく、栗山監督の言いたいことは全部わかっていたはずだ。WBCへ出場したいという想いは終始、揺らぐことのなかった大谷だからこそ、栗山監督の話を聞いてしまったら、そのことを考えざるを得なくなる。だから球場で出会った時、挨拶だけして恩師から逃げよう(笑)としたのではなかったか。

 そして、栗山監督はそんな大谷の"塩対応"の真意をわかっていた。

「これが日本の野球の将来のためだから、ということを誰よりもわかっているのは翔平です。これからの日本の野球のためにこのWBCがどういう意味を持つのか、メジャーでプレーする選手が出場することがどんな意味を持っているのか、そこを彼はわかっていたはず。とはいえビックリしたのは、翔平から僕に直で電話がかかってきたことでした」

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