侍ジャパンを世界一へと導いた「言葉なき二刀流采配」 なぜ栗山監督は大谷翔平を理想の形で使いきれたのか (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sankei Visual

 しかし大谷と会った時は、そうではなかった。栗山監督は昨年末、こんな話をしている。

「まず翔平がメジャーであれだけの成績を残した2021年、帰国して僕と食事した時、僕がジャパンの監督になったことを知っているのに3時間、WBCについての話がまったく出てこないんですよ(笑)。まったくもって翔平らしいというか、ねぇ(苦笑)。ただ、彼が1月にアメリカへ戻る時、きちんと仁義はきっておかなきゃと思ったので、こちらから連絡したんです。そうしたら彼のほうから『アメリカで待ってますよ』って......これはつまり、今はまだ何も言わないで下さいね、という意味なんだろうなと自分なりに空気を読みました。たしかに面と向かって話をしなければこちらの魂は伝わらないと考えていましたし、翔平との間のなんとも言えない独特の距離感はよくわかっているつもりだったので、よし、時期が来たら会いに行こうと、そんなふうに思っていました」

 それが昨夏の"視察"という名の渡米だったというわけだ。でもね、と苦笑いを浮かべて栗山監督はこう続けた。

「ほかの選手とは食事をしながら2時間くらいは話ができたんですが、翔平とはホントに一瞬(笑)。『お疲れさまでした』みたいな感じでそのままフッと行っちゃおうとしましたから......さすがにその時は引き留めてひと言、こちらの想いを伝えました。何の反応もなかったし、何も答えなかったけど、それも翔平らしいよね。こちらが正式に何も伝えていないのに物事だけがどんどん進んでしまっている雰囲気のなか、僕は翔平という人はこちらが考えていることをさらに上回って考えられるとも思っていて、だから野球に関してはすべてお見通しだろうし、信用もしているしね」

【イチローと大谷翔平の符合】

 栗山監督の言葉を聞いて、ふと思い出したのが2005年のことだ。

 その年の秋、当時はホークスの監督だった王貞治が、第1回WBCの日本代表の監督を務めることが決まっていた。代表選手を選ぶにあたって、262本というシーズン最多安打のメジャー記録を打ち立てた(2004年)イチローはどうしても出場してもらわなければならない選手だ。そこで王監督はアメリカにいるイチローに関係者を通じてその想いを手紙で伝えようとした。

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