韓国野球のリアル「護身と競争のない世界」日本の宿敵はなぜ凋落してしまったのか (2ページ目)

  • 木村公一●文 text by Kimura Koichi
  • photo by Getty Images

【練習しない悪しき習慣】

 そしてもうひとつ、最も深刻な問題は練習をしなくなったことだ。前述したように、故障を恐れるのも一因だが、「練習しないこと」が正しく、コーチ(とくにトレーニングコーチ)や球団フロントも「無理をするな」と選手を甘やかすようになってしまった。

 契機は2015年前後。ネクセン・ヒーローズ(現キウム・ヒーローズ)というチームが、「練習しないこと」をモットーに掲げ、チームをつくり上げた時期があった。「トレーニングは自主性に任せ、選手を追い込まず、むしろ休ませてシーズンを乗りきる」と。優勝こそなかったものの、低迷していたチームはAクラスに食い込み、ちょっとした"ブーム"を起こした。

 もっとも、当時のネクセンの主力は球界を代表する顔ぶれが並び、外国人選手も20勝するほどの投手がいたりで、練習をしなくても戦力は整っていた。ところがネクセンの大躍進で、ほかのチームも真似をし始めたのだ。

 やがて「猛練習は過去の遺物」となり、「いかに練習させないこと」が主流となる。「メジャーは猛練習などしない」「メジャーは合理性を重んじる」といった勘違いがまかり通るようになってしまった。

 ある韓国の球界関係者は言う。

「アスリートというのは、どんな競技であっても、ある時期、ある程度は自分を追い込むような練習は必要です。ところが韓国では、追い込みどころか通常のキャンプやシーズンの練習も軽めにやるようになってしまったんです。それではシーズンを通してプレーする筋力も体力もつかない」

 ケガをしないためのトレーニングという発想もなかった。それでは伸びるものも伸びない。打者は飛距離が伸びず、投手なら球速はもちろん、安定した制球力も身につかなくなった。さらに練習不足は、皮肉にもケガを誘発させる原因となった。

 もちろん、この現状に警鐘を鳴らす者はいた。しかし球団は、大金を投じている選手のケガを恐れ、耳障りな声は聞こえないふりをした。コーチにしても、心ある者はわだかまりを抱きつつも、文句を言えばクビになるため口は出せない。気がつけば"イエスマン"しかいなくなっていた。

 そうした悪循環のなか、韓国野球のレベルは徐々に低下していった。

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