辻発彦が語る広岡達朗、森祇晶、野村克也、落合博満の4人の名将。「野村監督のベンチでの小言は選手にヒントを与えている」 (3ページ目)

  • 水道博●文 text by Suido Hiroshi
  • photo by Sankei Visual

【三冠王監督がたどり着いた守りの野球】

── 現役時代に三冠王を獲得した野村監督と落合監督は、交流戦の時によく監督室で対談し、「野球は投手力を含めた守り」であると、話し合っていたそうです。このふたりの監督について、野球の違いはありましたか?

 ふたりとも攻撃のサインはあまり多いわけではありません。基本的にオーソドックスな戦い方をしますし、あまり動きません。あえて言えば、野村監督はどちらかと言えばネガティブ。だから「失敗したら......」という言葉が先に出てきます。失敗から逆算して考える感じですね。ただ個人的には、ネガティブな人間のほうが監督に向いているのではないかという気がします。なぜなら、まずリスクを考えて、それを回避しようと慎重になりますから。

 FAやトレードでチームの戦力が変わるなか、長い143試合のペナントレースを戦うには「投手力を含めた守り」が、最も重要になってきます。そこが安定したなかで「打つ」「打たない」の出来が勝敗に関わってくると思います。ふたりとも、そこは共通した考えでしたね。

── 長いシーズンを戦うには、やはり投手力が重要だと?

 投手陣が不安定で、劣勢になるとどうしても作戦面でも無理が生じてきます。たとえば、確実にランナーを送って1点をとりにいけばいいところを、強行策に出て裏目に出てしまう......そんなことはよくあります。"打つ"というのは、計算が立ちません。だから、「打ち勝つ」というのは続かないものです。逆に、"守り"というのは計算が立ちます。だから、投手陣を含めた守りの野球は理想であり、目指すところです。

── ただ、辻監督が率いていた西武は"山賊打線"と評された強力打線がウリのチームでした。

 いい投手陣を揃えるのは、簡単ではありません。だから、2018年はチーム打率.273(リーグ1位)、防御率4.24(リーグ6位)、2019年はチーム打率.265(リーグ1位)、防御率4.35(リーグ6位)と、強力打線を前面に押し出して戦うしかありませんでした。18年、19年はリーグ連覇を果たしましたが、3連覇、4連覇とは続かなかった。かつての巨人V9や西武の黄金時代は、投手を中心として守備力があっての攻撃でした。

── 名手だった辻さんが、現役引退後に2007年から落合監督率いる中日に招聘されたのも、守備の意識を選手に植えつけたかったからでしょうか。

 落合監督は私より5歳上。私は、最初は二軍監督でしたが、誰を一軍に送り込めるかという連携を大事にしていました。そして優勝した2010年、11年は一軍コーチでした。打てなかったですが、投手力がよかった。投手がしっかり踏ん張って、打線は走者が出たら1点、2点をコツコツとる。守備、走塁面を強化したのがリーグ優勝できた要因だと思います。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る