大学球界屈指の名コーチになった元中日・辻孟彦が師匠・山本昌と語り合う投手指導論。「違和感を感じられることが大事」 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kai Keijiro

山本昌 でも、あのヒザを早く折る使い方はロスが大きいから、僕はやめたほうがいいという考えです。ヒザは曲げようとしなくても、体重移動していくうちに勝手に曲がっていくもの。移動距離を長くとろうと思ったら、それが理に適っています。

 僕も同じ考えです。昌さんをはじめプロ野球の一流投手を見ると、あえて自分でヒザを曲げにいく投手は少ないですよね。マウンドには傾斜がありますから、体重移動の過程で自然にヒザが曲がっていくものだと考えています。でも、アマチュアの投手は平地でフォームをつくろうとしすぎる傾向があります。平地でキャッチボールをして「今、いいボールがいった」と満足してしまう。でも、大事なのはマウンドでどういうフォームで投げるかなので。そこはうるさいくらいに言っています。

山本昌 プロでもキャッチボールはいいけど、マウンドでは全然ダメという投手は何人もいました。18歳でドラゴンズに入ってきた当初のチェン・ウェイン(前阪神)なんかもそう。キャッチボールではものすごいボールを投げているのに、マウンドに立ったらリリースのタイミングが合わなくて片鱗もない(笑)。それがだんだん合うようになって、やっぱりすごい投手になった。

 キャッチボールが大事なのは間違いないんですけど、平地でのキャッチボールで満足するのではなくて、マウンドや試合でパフォーマンスを発揮するための過程としてキャッチボールがあるということですよね。昌さんはキャッチボールだけじゃなく、ケアとか毎日淡々と継続されていましたよね。

山本昌 僕の場合は「バカの一つ覚え」が得意だったんです(笑)。自分がいいと思ったことをしつこくやるタイプだったので。ワンパターンなんだけど、でもラクなんですよね。習慣化するから。

 学生を見ていて、継続する力の大切さを感じます。

山本昌 肩周りや上半身の動きは何かアドバイスをしますか?

 先ほどの「回転運動」に含まれるのですが、体幹の改善とか上胴部分の動きですね。よく「胸を張れ」と言われますが、そういった部分は見ます。あとは大学のいろんな先生方と話すのですが、「違和感を感じられる」ことが大事だなと。

山本昌 おお、なるほど。

 フォームを静止画で見るのではなく、動作の流れのなかで「あれ、ここがおかしい」と違和感があるところを見つけ出すんです。映像で撮って、何回も何回も見返すなかで気づける部分なんですけど。

山本昌 それは評論家のチェックの仕方と共通しているかもしれないですね。

後編へつづく>>


山本昌(やまもと・まさ)/1965年、神奈川県生まれ。日大藤沢高から83年ドラフト5位で中日に入団。5年目のシーズン終盤に5勝を挙げブレイク。90年には自身初の2ケタ勝利となる10勝をマーク。その後も中日のエースとして活躍し、最多勝3回(93年、94年、97年)、沢村賞1回(94年)など数々のタイトルを獲得。06年には41歳1カ月でのノーヒット・ノーランを達成し、14年には49歳0カ月の勝利など、次々と最年長記録を打ち立てた。50歳の15年に現役を引退。現在は野球解説者として活躍中。

辻孟彦(つじ・たけひこ)/1989年7月27日、京都府生まれ。京都外大西高では3年夏に甲子園に出場。卒業後は日本体育大へ進学し、1年春からリーグ戦に登板。4年春のリーグ戦では13試合に登板し、リーグ新記録の10勝をマーク(5完封)するなど、大車輪の活躍でMVPを獲得。11年のドラフト会議で中日から4巡目で指名され入団。プロでは13試合の登板で、3年で現役生活を終えた。引退後は母校・日体大の投手コーチに。著書に『エース育成の新常識 「100人100様」のコーチング術』(ベースボールマガジン社)がある。

プロフィール

  • 菊地高弘

    菊地高弘 (きくち・たかひろ)

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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