西武ヘッドコーチ平石洋介にとって松井稼頭央は「怒らせたらあかん人」から「尊敬できる先輩」「上司」「仲間」となった (3ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Sankei Visual

 一方、松井からすれば、平石が若くして指導者となり、一軍バッティングコーチとして2013年の日本一を陰で支えていたことも知っている。ヘッドコーチ、一軍監督とステップアップしたのは、人を導く手腕があると認めているからである。だから、2019年に西武の二軍監督となった際、松井は平石を頼った。

 食事の席や電話で松井から助言を求められれば、胸襟を開きなんでも答えた。

 チームの意思の疎通を図る重要なミーティングで、平石は自分だけがしゃべるのではなく、必ず選手にも意見させている。首脳陣からの一方通行だと、選手が本当の意味で話を理解できているのか、曖昧なままで終わってしまう可能性があるからだ。

「選手にも一緒に考えてもらうため、ミーティングに興味を持ってもらうため」

 そういった深謀が込められている。

【監督はとにかく孤独】

 また平石は、シートノックにもこだわりを持つ。重要視するのは、動きとかけ声だ。

「試合では大歓声のなかでプレーするから、守備連携の声が聞こえづらい。だから判断力を養い、視野を広げさせるためにあえて声を出さないシートノックをすることもあります」

 戦術的なことこそ話せずとも、"指導者・平石"としてこうした金科玉条を惜しげもなく伝えた。そんな男だからこそ、松井から西武に誘われたのである。

 昨シーズン、ベンチの奥で監督の辻発彦が目を光らせ、手前にはヘッドコーチの松井とバッティングコーチの平石が戦況を見守っていた。この並びには、じつは意図があった。

「カズさんは指導者として初めての一軍で、ましてやヘッドコーチだったんで大変だったと思うんです。自分はどっちも経験させてもらっているから『僕が気づいたことは遠慮なく言わせてもらいますけど、カズさんも何でも言ってください』って話していたんで、『なら横にいたほうがいいだろう』って」

 同じチームで1年を過ごした平石に、「指導者としての松井稼頭央は?」と尋ねた。すると、少し照れくさそうに「稼頭央さんは、稼頭央さんでしたよ」と言った。

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