西武ヘッドコーチ平石洋介にとって松井稼頭央は「怒らせたらあかん人」から「尊敬できる先輩」「上司」「仲間」となった (2ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Sankei Visual

「僕が高校の時から『怒らせたらアカン人や』って聞いていたんで、こっちとしては身構えるじゃないですか。それが『えっ?』っていうくらい穏やかで。めっちゃしゃべりやすいし、やさしいし、親身に接してくれるんで『俺が抱いていたイメージってなんやったの?』って。それくらい、いい人でした」

 この時点で、日米通算2000安打を達成していたスーパースターであっても偉ぶることなく、高校の後輩である平石のみならず誰に対しても同じようにやさしく接する松井とはすぐに打ち解けた。「稼頭央さん」「平石」から「カズさん」「ヨウ」と呼び合うようになったのも、自然な流れだった。

 後輩と先輩の関係に変化が訪れたのは、平石がこの11年限りで引退し、翌年から楽天でコーチとなってからだ。

【年下の平石にも敬語】

 年下の指導者と年上の現役選手──この構図こそ、平石が松井の器の大きさと懐の深さをいっそう認識し、松井もまた平石のブレない根っこを知れた端緒にもなった。そして平石が楽天の二軍監督となった2016年。前年に不惑を迎えた大ベテランの松井に対し、指導者としての自分の方針を明示した。

「ウォーミングアップは手抜きせずにする、声を出す時は出す。それは若手もベテランも関係なく徹底させるんで、カズさんもしっかりやってください」

 松井が二軍監督の指示に従う。それどころか周りにチーム関係者がいれば年下の平石を「監督」と呼び、敬語で話すなど、後輩扱いせず指導者として接してくれたのだ。松井からすれば当たり前の振る舞いであったが、要するに彼は"フォア・ザ・チーム"の塊のような人間なのである。

 西武に復帰し、現役最後となった2018年。松井は代走として出場する試合がたびたびあった。43歳という年齢から考えると、ベンチとしては代打として待機してもらうケースが多い。しかし、ベンチから足で戦力として見られている以上、松井はそのための準備をし、文句ひとつ言わずに役割をまっとうした。

 同じチームではなかったが、平石はそんな松井の姿を見てきたのである。

「カズさんくらい実績を残している人ができることかと......。首脳陣に気を遣わせるベテランもいるので。それがないから、カズさんはすごいんです」

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