【追悼】門田博光が生前語っていた通算567本塁打の悔恨「あと33本は打てた。打つべきだった」

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Sankei Visual

 南海、オリックス、ダイエーでプレーし、プロ野球歴代3位となる通算567本塁打を放った門田博光氏が死去した。スポルティーバでは門田氏に何度も取材を重ね、「ホームランに憑かれた男〜孤高の奇才・門田博光伝」を連載。身長170センチ、高校通算0本塁打の門田氏がいかにして王貞治氏、野村克也氏に次ぐ本塁打を量産できたのか。その研ぎ澄まされたバッティングの極意というべき技術論と精神論について語っている。今回追悼の意を込めて、2020年8月17日に掲載した連載第1回の記事を再掲載します。謹んでご冥福をお祈りします。(所属チームなどは掲載時のものです)

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ホームランに憑かれた男〜孤高の奇才・門田博光伝
第1回

 プロ野球が遅い開幕を迎えた6月末、山間にある緑豊かな公園で門田博光に話を聞いていた。「3密にならんようにせんとな」という門田のリクエストに沿って見つけた公園は、適度に手入れされた草木の脇に小川が流れるのどかな場所だった。

 平日の午後、人影もまばら。木製の椅子に腰かけた門田は、「ええとこやないか。しゃべるにはもってこいや」と満足げな表情を浮かべた。

NPB歴代3位の通算567本塁打を放った門田博光NPB歴代3位の通算567本塁打を放った門田博光この記事に関連する写真を見る この10年、門田と定期的に会い、いろいろな話を聞いてきた。そのほとんどは、門田の暮らしのなかでのぼやきから始まった。

 たとえば、市役所窓口での職員の対応であったり、喫茶店での店員とのやりとりであったり、政治やテレビ番組の内容についてであったり......。

「おかしいと思わんか?」

 門田の主張はたしかに正論だが、大半の人が「これくらいは......」と流せるところで引っかかってしまう。プロ野球の長い歴史のなかで歴代3位の567本塁打を放ち"レジェンド"と称されてきた男の繊細さを、あらためて知らされた10年でもあった。

 この日は、少し前に診察を受けた医師とのやりとりについてぼやいたあと、話はようやく開幕したプロ野球へと入っていった。

「143試合が120試合になって、連戦が増えるらしいな。オレらの時は20連戦とかあって、その間にダブル(ヘッダー)もや。想像できんやろ? あの頃はどんだけG(巨人)のスケジュールがうらやましかったか。そこまで条件が違ったら、個人の記録なんて変わってくる。でも、それがその時代のパ・リーグの環境やったんや」

 パ・リーグは1973年から82年まで前・後期の2リーグ制を敷いていた。日程は過密を極め、20試合前後の連戦が一度ならまだしも、二度、三度組まれることもあった。9連戦で騒ぎになる今とは、まさに隔世の感がある。

「昔はドーム球場なんてないから、しょっちゅう試合が中止になった。そのせいで20連戦なんて組まれたらヘトヘトで、体もパンパンや。阪急との試合前、フク(福本豊)に『(ご飯にみそ汁をぶっかけた)ねこまんまって食べたことあるか?』って聞いたことがあったけど、そんなんしか(口に)入らへん。ほんま、えげつない日程やった」

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