広岡達朗が語る日本野球のすばらしさと日米指導者論「コーチがベビーシッターになってどうする!」 (3ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin
  • photo by Sankei Visual

【日本には日本のよさがある】

 現役時代は日本、メジャーで活躍し、引退後は各球団でピッチングコーチとして大谷翔平や佐々木朗希らを育てた吉井理人は、大学院で他競技の指導者から話を聞くなどして、コーチング理論を学んだ。

 そして昨年3月には、MLBで最先端のシステムやトレーニング方法を学ぶ目的で、ロッテ球団に籍を置きながらドジャースのスプリングトレーニングへ短期コーチとして参加。今季からロッテの監督として指揮を振るう吉井は、日本とアメリカの指導の違いについて、こう語っていたことがある。

「アメリカの場合は、コーディネーターという役職の方が一人ひとりちゃんとチェックしていて、現場ではコーチが指導し、コーディネーターは現場には行かないけれども、ビデオを見たり、上がってきた細かい数値を見たりして、今回こうしたらいいのでは......と判断して現場のコーチにアドバイスしたりしています。

 メジャーはもちろん、マイナーにもメンタルトレーナーがついていて、キャンプ中はモチベーションを上げるメソッドといったいくつかの講義があります。そういう面では日本はまだまだです」

 日本の場合は現場に権限を与えすぎていて、専門的なスタッフがたくさんいてもうまく機能できていないと言われており、まだまだアメリカから学ぶことは大いにありそうだ。それでも広岡は、最後にこうも言う。

「日本の野球には、礼に始まり礼に終わるというすばらしい文化がある。先人たちが支えてきたプロ野球を継承していくためにも、指導者がもっとしっかりやらなくてはいかんのだ。技術指導はもちろん大事だが、ほかにも教えることがあるはず。なんでもかんでもアメリカの真似をするのではなく、日本野球の原点に立ち返り、切磋琢磨するための規律ある練習に打ち込むにはどうしたらいいのかを考えるべきだ。飽食暖衣の今は、己のためだけに野球をやっている。かつては、誰かのためにという思いを胸に秘めて野球をやっていたものだ。『プロフェッショナルとは何か?』をもう一度考え、野球に打ち込んでほしい」

 アメリカから学ぶことも大いにあるが、広岡は日本野球のすばらしさを継承しつつ、後世に残すべきだと強く訴えるのだ。

(文中敬称略)

【著者プロフィール】松永多佳倫 (まつなが・たかりん)

1968 年生まれ、岐阜県大垣市出身。出版社勤務を経て 2009 年 8 月より沖縄在住。著書に『沖縄を変えた男 栽弘義−高校野球に捧げた生涯』(集英社文庫)をはじめ、『確執と信念』(扶桑社)、『善と悪 江夏豊のラストメッセージ』(ダ・ヴィンチBOOKS)など著作多数。

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