広岡達朗が語る日本野球のすばらしさと日米指導者論「コーチがベビーシッターになってどうする!」 (2ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin
  • photo by Sankei Visual

 広岡は一軍、二軍、そしてソフトバンクや巨人などが採用している三軍も含め、まだまだハングリーさが足りないと嘆く。いくらアメリカと土壌が違うと言っても、もう少しうまいやり方が絶対にあるはずだと広岡は言う。

【メジャーのコーチは見るのが仕事】

 そして話は、日本の指導者のあり方へと広がった。

「日本は引退して、すぐコーチをやる者が大勢いる。ろくに勉強もせず、何を教えるというのだ。たとえば、アメリカのベースボールを勉強してコーチになった者は何人いるんだ? なにより、コーチになるための養成期間をNPBが主導になってつくろうともしない。

 以前、石毛(宏典)が『今はメジャーリーガーの給料が高くなっているため、無理に練習をさせて故障でもさせたら訴訟問題になって大変なことになります。なので、コーチは選手のご機嫌取りといったベビーシッターみたいなものです』と言っていたことがあるけど、そういうことじゃない。

 メジャーのコーチは教えないのではない。ひとりの選手に教えると、ほかの選手が『アイツだけ贔屓にしやがって』と言ってくる。要するに、ひとりに教えたら全員に教えないといけない。多民族のため"平等"がベースにあり、それが民主主義なんだ。まあ、今の日本の指導者がベビーシッターみたいになっているのは間違いないが、そんなことでどうするのかと言いたい」

 アメリカは、各国から"アメリカンドリーム"を目指して集まり、何層にもなっている各カテゴリーでそれぞれ淘汰され、生き残った者だけがメジャーに上がれるシステムである。だからと言って、何も教えないというわけではない。アドバイスを求められれば当然指導するし、よほどひどい状態の選手がいればコーチから声をかけることもある。

 ただ、本人の個性に関わる根本的な技術やスタイルがあるため、むやみにイジってしまうことを避けているという。それでもコーチは日頃から選手一人ひとりを穴があくほど観察し、アドバイスを求められた時に的確に指導する準備をしている。

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