野茂英雄の「珍記録」完投勝利、高校野球での執念の2スイング......。ベテラン実況アナが仕事中に見入った試合ベスト5 (5ページ目)

  • Text by Sportiva

【1位】2022年4月10日 NPB ロッテ対オリックス 6-0

 2022年の野球界の大ニュースになった、ロッテ・佐々木朗希投手が完全試合を達成した試合です。私はこの試合、実況ではなくベンチレポーターだったのですが、あまりに衝撃的な試合でした。

 当初、放送する側としては、佐々木投手とオリックスの宮城大弥投手の投げ合いをクローズアップしていました。同じ2001年生まれで、U-18日本代表ではチームメイトでもありましたからね。佐々木投手は、前年は登板間隔を長く空けるなどして11試合に先発し、3勝2敗。本拠地のZOZOマリンスタジアムで、今年の2勝目をかけたこの試合は、宮城投手を相手に「プロの投手として勝てるピッチャーになっていくのか」が試される試合でもありました。

 佐々木投手は1回2死から奪三振を続け、まず放送席としては連続奪三振記録「9」を抜くか?とザワザワします。結局は5回まで13連続奪三振と記録を大きく更新。「このまま全部三振でいくかも?」とワクワクしてしまうほど、この日のピッチングは圧倒的でしたね。

 6回の先頭打者で記録は止まって少し球場のザワつきも落ち着いた感じがありましたが、三振の記録に気を取られていた人たちが「アレ、そういえばひとりもランナー出してないよね?」と再び色めき立ちます。

 これは放送する側の"あるある"なんですが、大記録がかかった時に「前に達成されたのは......」といったことを調べて実況アナウンサーが話した次の瞬間、それが途中で止まってしまうというジンクスがあって。「いつ言う?」という探り合いというか、別の緊張感が張り詰めた感じになりました(笑)。

 幸いレポーターだった私は試合を楽しんでいたんですが......いよいよ8回までパーフェクトで終えた時に、「ヒーローインタビューで何を聞けばいいんだ?」という不安が頭をよぎりました。コロナ禍の前までは、リポーターは試合終了が近づくとベンチ横やカメラマン席などに待機していたんですが、今は感染予防でそれができない。グラウンドや選手たちの雰囲気などはインタビュー内容のヒントにもなりますからね。

 実際にロッテのベンチ横に降りられたのは9回表のギリギリ。「ここで完全試合が途切れたら聞くことを変えないと......」とドキドキしながら試合を見守っていましたが、ベンチの(ブランドン・)レアード選手や(レオネス・)マーティン選手が嬉々としてペットボトルを用意しているなか、最後は代打の杉本裕太郎選手を三振に打ち取り、1試合奪三振数日本記録タイ(19奪三振)も達成しての完全試合。記録がかかった9回に飄々と投げる姿も印象的でした。

 それで、いざヒーローインタビューとなったわけですが、あれだけの力投をした疲労は感じました。だから会場は盛り上がるけど答えやすいような質問にしようと。素直に「思っていることを話してもらおう」と意識しましたが、ファンの方のなかにはもっと長く、突っ込んで聞いてもらいたい方もいたかもしれませんね(笑)。

 翌日も大騒ぎで、ヒーローインタビューをした私もメディアに取材されるという珍しいことも起きましたよ(笑)。その思い出や、試合中の私たちのドキドキ感も含めて、やはりこの試合が1位になりますね。

【プロフィール】
上野智広(うえの・ともひろ)

1967年4月15日生まれ、千葉県出身。フリーアナウンサー。早稲田大学卒業後、1991年に文化放送に入社。同局『ライオンズナイター』、北京五輪の実況も務めた。2014年に文化放送を退社し、フリーアナウンサーに。現在は野球を中心にアメリカンフットボール、バスケットボールなど幅広い競技を担当している。

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