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斎藤佑樹が甲子園決勝で田中将大に抱いた複雑な感情「投げるボールは敵わないけど、エースとしては負けていない」 (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Okazawa Katsuro

 僕がつくったストーリーは、群馬の片田舎から出てきた生意気な野球少年が東京の早実に入ってエースになって、強い相手に勝って、甲子園で優勝する。そうやって勝手に『MAJOR』みたいな下克上のストーリーをつくっていたんです。

 あの夏、(日大)三高に延長で勝って甲子園に出られた。その後も強い相手に勝って、決勝まで勝ち進んだ。これはストーリーどおりだ、レールに乗っちゃってる、もうストーリーはできあがっているんだと、本気でそう考えていました。だから延長になっても再試合になっても「準優勝は絶対にあり得ない。優勝するのは自分たちだ」と決めてかかっていたんです。

 最後、マー君から三振をとった144キロも、自分では150キロを投げたつもりだったんですよね。144キロだったと聞いて、やっぱり疲れてたんだなと思いました(笑)。あの一球は120パーセントの力を使えば、アドレナリンも出ていたし、甲子園での自分のマックス(149キロ)は超えられるんじゃないかなと思っていました。

 高校野球のエースには、誰よりも負けん気が強くて、自分が先頭に立って突っ走るイメージがあります。キャプテンじゃないけどキャプテンみたいな感じ。だから僕も自分のなかでいろいろなドラマを勝手につくって、ピッチングで表現する。頑張って頑張って、ヘトヘトになって苦しんで、それでも最終的には自分が勝つ......それがエースであり、松坂さんであり、茂野吾郎なんです。

 夏の甲子園をイメージすると、マウンドに立っている自分がバックネットの観客席をふわっと見てる感じが思い浮かびます。青臭い緑の匂いがして、自分にとっては甲子園イコール緑、という感じです。で、緑のイメージのネット裏は静かなのに、アルプススタンドは騒がしくて、景色が全然違う。目の前は緑なんだけど、右斜め後ろは白で、聞こえてくるのは『紺碧の空』で......そっか、そういえば決勝は僕ら、3塁側でしたね。

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 早実は夏の甲子園で優勝し、斎藤佑樹は優勝投手となった。しかしこの年の斎藤はただの優勝投手ではなかった。「ハンカチ王子」と呼ばれた斎藤は甲子園が終わると、日本でもっとも顔と名前を知られたスーパースターに祭り上げられたのだ。彼を取り巻く世界は、一夜にして変わってしまった。

(次回に続く)

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