斎藤佑樹が甲子園決勝で田中将大に抱いた複雑な感情「投げるボールは敵わないけど、エースとしては負けていない」 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Okazawa Katsuro

 ワンボール、ツーストライクとなっての5球目、(キャッチャーの)白川(英聖)のサインはストレートでした。でも僕は首を振った。真っすぐで決めたい気持ちはありましたが、スライダーのほうが打ちとれると思ったんです。そうしたらアウトローを狙ったスライダーが高く抜けて、インハイへ甘く入りました。そのボールをマー君がマン振りして、これもファウルです。その直後、白川がマウンドへ飛んできました。「力入ってるよ、力抜いて、丁寧に」って。あの時の白川、よく勝ち急がずにマウンドへ来てくれたと思います。

 ボールを丁寧にこねて、帽子をかぶり直して、ロージンを手にとって、落ち着いてから仕切り直します。続く6球目、またもスライダーが真ん中付近へいってしまいましたが、これもマー君が当ててきて、三塁線へファウル。

 そして7球目、サインはストレート。今度は僕も頷きました。アウトコースに144キロ、マー君が振ってきて......この時、バットにかすっていたんじゃないかと思います。それを白川が捕って、三振、試合終了。

ガッツポーズのイメージは松坂大輔

 ついに夏の甲子園、優勝です。

 優勝の瞬間、僕はクルッと回ったんですが、あの時、センター方向に向かってガッツポーズしたのは松坂(大輔)さんのイメージでした。でも、じつは「もしアウトカウントを間違えてガッツポーズしていたら恥ずかしいじゃん」と思っていたんですけどね(笑)。松坂さんの時にはあっという間にみんなが集まってきた印象があったのに、「あれっ、まだ来ないぞ」って。

 僕がずっと目指してきたのは1998年の夏、横浜高校が甲子園で優勝した時の松坂さんです。だからエンディングはああいうガッツポーズしかあり得ませんでした。松坂さんと......あと、漫画『MAJOR』(満田拓也作)の茂野吾郎とも同じイメージだったんです(笑)。

『MAJOR』でも吾郎の亡くなったお父さんが打ったライトへのホームランを、最後、自分でも打つじゃないですか。もうかなりの方にバレているとは思いますが(笑)、僕って若干のロマンチストなんですよ。それこそ『MAJOR』を読んで、最初は野球部もなかった弱小の聖秀学院が、吾郎が入部してあの強い海堂高校を追い詰めるくらいまで強くなったじゃないですか。

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