斎藤佑樹「ハンカチ王子と呼ばれるのは好きではなかった。野球の実力じゃないところにフォーカスされた」 (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sankei Visual

 僕ら、みんなで「エッ」と顔を見合わせるくらいで、気合いも入っていて、すっかり青木くんを打ちあぐねてしまいます。それでも8回、代打の神田のヒットから佐々木、小柳、後藤、船橋と続いて、一気に逆転。僕も最後まで投げ切って(144球、被安打5、奪三振10、2失点)5ー2で逆転勝ち。ベスト4への進出を決めました。

 準決勝は第1試合が駒大苫小牧と智辯和歌山、第2試合が早実と鹿児島工の対戦です。優勝まであと2試合、しかも2日、続けて投げなければなりません。日大山形の試合で力を入れようと思って投げたのにうまく力が入らなくて、さらに力んでしまっていい球がいかない......だったらと、鹿児島工との試合では力を抜いてみようかなと思いつきました。

 ここで力を抜いておかないと、もし決勝に勝ち上がれたとしても、そこで戦う力が残らないかもしれないと考えたんです。もちろん、力を抜くのと手を抜くのはまったく違います。手を抜いたわけではなく、いい感じで自分の力を抜く。その試みが結果的に力を抜く投球を覚えるきっかけになったような気がします。

 準決勝の鹿児島工戦、僕は完封することができました(被安打3、無四球、13奪三振、113球)。あれはすごく自信になりましたね。うまく力を抜きながら、それでもボールは速かったし、キレもあった。ピッチングに"適当"という感じを出せたという意味で、ものすごく大きな意味を持つ試合になったと思います。

 野球の世界ではよく"覚醒"という言葉を聞きますが、その言葉を僕に当てはめるとしたら、あの鹿児島工との準決勝で、僕は覚醒したんじゃないかなと思うほどです。とくに印象に残っているのが2回、4番の鮫島(哲新/のちに中大)くんに投げた初球のストレートでした。

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 夏の甲子園へ初出場を果たした鹿児島工は、勢いに乗ってベスト4まで勝ち上がってきた。原動力はエースの榎下陽大、4番の鮫島、そして8割に迫る成功率を誇っていた代打男の今吉晃一。斎藤はこの一戦で、彼らの度肝を抜くピッチングを披露することになる。

(次回へ続く)

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