ソフトバンクの最終兵器・田中正義に覚醒の予感。「日本球界の宝」と言われた男が6年目にしていよいよ本格化

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Koike Yoshihiro

 なんだか、今までとはちょっと違ってきたかな......と思った。

 2月22日、西武との練習試合で、ソフトバンクの田中正義が先発2イニングを、ひとりの走者も許さないパーフェクトピッチングを見せた。

ここまで順調な仕上がりを見せているソフトバンク・田中正義ここまで順調な仕上がりを見せているソフトバンク・田中正義この記事に関連する写真を見る ストレートはコンスタントに150キロ近いスピードをキープし、最速は156キロ。1番から鈴木将平、外崎修汰、森友哉、山川穂高、中村剛也、ブランドン......と、一軍の主力がズラリと並ぶ西武打線に、とらえられた打球は1本もなかった。

 その5前の紅白戦でも、やはり先発3イニングで3安打2四球。5人の走者を出しながら1点に抑えた。昨年までなら「そこで崩れていたよね」という場面で、今年はしっかりと踏みとどまってみせた。

 2四球は与えたものの、球筋が暴れているというほどではなかった。両サイドにボール1つ分ほど外れてカウントを不利にすることはあったが、それでも穏やかな表情で次の投球に挑んでいく。

 昨年の田中は四球の多さが目立った。一軍の試合で16回2/3を投げて8四球。ファームでも16イニングで9四球。とはいえ、防御率はそれぞれ2.16(一軍)と1.06(二軍)なのだから、素質開花の兆しはあったわけだ。

 マウンド上で柔らかな笑みを浮かべながら、四球の次の打者の初球にカーブでカウントを奪う姿を見て、6年目にしてとうとうマウンドを支配できる投手になってきたなと、とてもうれしく思えたのにはワケがあった。

マウンドの自分とふだんの自分は別人

 田中が創価大4年の秋、彼の全力投球の球を受けている。たしか、学生最後のリーグ戦を終えた直後、必勝のプレッシャーから解放された右肩はひときわ軽く、外野で遠投を繰り返す田中のボールは、山なりの弾道ではなく、低い角度のライナーで100m近く伸びていった。

 18.44mをあの勢いで投げられたら......想像しただけで、嫌な汗が背中から滴り落ちてきた。それに加え、ドラフト会議まで数日のタイミングということもあり、やがて入団することになるソフトバンクのスカウト部長以下3人のスカウトが、グラウンドに訪れていた。

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