「僕のなかでベイスターズが最後の球団」。10年ぶり復帰・藤田一也の古巣愛と新たな覚悟 (2ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Sankei Visual

【パパ、二軍なんでしょ?】

 昨シーズン、藤田はプロ入り後、初めて選手としての生死の境界線に立たされた。開幕を二軍で迎えながらも、イースタン・リーグではスタメンとして出場する試合も多く、存在感を示していた。規定打席にこそ未到達でも打撃は3割前後をキープし、「職人」と呼ばれる守備は変わらず洗練されている。

 若手であれば一軍に上がれるラインかもしれないが、39歳の自分はもっと高い数字を残さなければ一軍で戦えないのだと、首脳陣から判断されている----ファームでプレーしている間、ずっとそんなジレンマと向き合ってきた。だからこそ、余計に危機感を抱く。

「このまま終わっちゃうんじゃないか?」

 それは、望まざる引き際を意味していた。

「やっぱり、なかなか上(一軍)から声がかからなかったんで、考えないことはなかったですね。『自分はまだまだできる。でも、今年で引退なのかな。来年はプレーできへんのかな?』って。この葛藤がしんどかったです。プロ17年で一番しんどかった。1年間、こんなしんどい想いをするっていうのは、初めての経験だったんで」

 暗闇が放つ引力に寄せられるようなネガティブな感情。そこに支配され、視野が狭くなりそうな時、ファームの試合でグラウンドを見渡すと、ところどころに「藤田」がはためいていた。

 二軍の舞台でも、タオルを掲げて応援してくれるファンがいる。<一軍の舞台で活躍してくれる日を待ってます>。そんなファンレターも少なくなかった。地元や大学時代の同級生や後輩たちも、メールやメッセージアプリを通じて激励してくれていた。

「このままでは終われないな」

 藤田に再び活力が漲る。さらに弱気な自分を踏みとどまらせてくれた決定打が、ふたりの子どもの存在なのだという。

「パパ、二軍なんでしょ?」

 とりわけ6歳の長男の言葉が、父である藤田の心をえぐった。

「いろんな人たちの言葉が励みになりましたよね。子どもたちにも言われたことでね、『一軍の試合に出ている姿を見せたい』とハッパをかけられましたし。そういうところで、心が折れずにできたのかなって思いますね」

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