「選手に自慢できるのは数字を残す過程で犯してきた失敗」石井琢朗が語るコーチとしての特性 (3ページ目)

  • 石塚隆●文 text by Ishizuka Takashi
  • photo by Kyodo News

 これもまた横浜での20年間の経験からなる英知である。石井は自分の指導者としての特性を次のように述べている。

「横浜の20年間は、いい意味で反面教師になっているんです。指導者として、僕が選手に自慢できるのは、残してきた数字よりも、その数字を残す過程で犯してきた失敗です。打撃も守備も走塁も、今の選手たちよりもはるかに多くのミスをしている。だからこそ失敗から学び、必要なスキルはもちろん、予測や準備を今の選手に伝えられることができる。これが僕の強みなんです」

 広島、ヤクルト、巨人を渡り歩き、ついに故郷である横浜で石井の選りすぐりのメソッドが注入されることになる。

 視察初日、石井に守備練習を見てもらった将来の正遊撃手候補である森敬斗は次のように感想を語る。

「すごく声をかけてもらいました。こんな感じでやってみたらどうか、そこはこうだよって、すごく小まめに言ってもらえて、とてもわかりやすかったです」

 この視察の時、石井は古巣に対し、次のように覚悟を口にしている。

「出ていった時にやり残したこと、自分がやらなきゃいけないものがあった。ここにいる時はどちらかと言ったら自分の成績、ファンの声援、年俸と、与えられたまま出ていってしまった。逆に今度はチームにいいものを残せたらと思います」

 横浜時代、もう一度リーグ優勝したかった。まわりに対して当たりが強くなっても必死だった。しかし、それは実現することなく、時は流れていった。これからは、それを現実のものとするため、自分の経験してきたすべてを愛すべきチームに注ぎ込む。石井は覚悟した表情で、きっぱりと言い切った。

「ここで自分の野球人生をまっとうしたいと思います」

 待ち望んだ石井琢朗の帰還。はたして選手たちはどのように応えるのか。すべてを賭けた勝負の賽は投げられた----。

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