ライバル→チームメイト→スタッフとして。榎下陽大が語る斎藤佑樹「野球の神様が味方についていた」 (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 細野晋司●写真 photo by Hosono Shinji

 普通だったら天狗になってもおかしくないレベルの騒がれ方じゃないですか。でも変わらなかったし、普通に「ごはん、一緒に行こうよ」って斎藤から言ってくれました。九産大の友だちも大興奮ですよ。「斎藤佑樹とごはんだ」って......当時の斎藤はどんな芸能人よりも有名でしたからね。その後も全日本の合宿で1年に一度は会うって感じだったので、なんだか遠距離恋愛しているみたいでしたね(笑)。

 だからプロで同じチームになった時はうれしかったですよ。もちろん、やっかみのようなものを感じたこともありました。プロ野球はうまくいかなければ終わってしまう世界ですから、僕がファームで手応えを感じていた時に一軍へ上がれないとなると、斎藤はずっと上で投げているのに「なんで僕は......」って思ったこともあります。

 やっぱり斎藤だけ特別扱いされてるとか、周りからも言われていて、それは本人の耳にも絶対に届いていたと思うんです。でも、斎藤はいつも変わらなかった。1年目から一軍で投げて、2年目に開幕投手をやって結果を出して、そういう斎藤とは僕もユニフォームを着ている間は枠を奪い合うという意味でライバルでしたから、悔しい思いもしました。

 でも僕が引退してからは僕の気持ちがスッキリしたのか、心から頑張ってほしいと思えるようになったんです。そこは斎藤が変わったんじゃなくて、僕が変わったということなんだと思います。

 ここ数年は、斎藤も苦しかったはずです。150キロを投げていたピッチャーが120キロ、130キロの真っすぐしか投げられないって、どれほど悔しいか......それでも何とか相手を抑えようと最後まで頑張っていた姿を僕は間近で見てきました。

 昔の速い真っすぐは投げられない、そのなかでどうしたら抑えられるかということを考えて、チームのアナリストと一緒に相手バッターの傾向をものすごく時間をかけてチェックしていたんです。そうじゃないと抑えられないということはあったと思いますけど、1イニングの中継ぎだったら投げるのは3、4人じゃないですか。それでも全選手について、どこが得意でどこが打ち取れているのかという傾向をアナリストから聞いていました。今の自分の球で抑えるにはどうしたらいいかということをとことん考えて、最後まであきらめなかったあの姿は忘れられません。

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