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「オレが23年かけてできなかったことを...」。門田博光は阪神・佐藤輝明に嫉妬した (4ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Sankei Visual

 門田は三振数については「どうでもええ」と素っ気ないが、「なんでもかんでも振りすぎや。我慢するんやなくて、ボールを絞ることや」と指摘した。

「アマチュアの時は積極的に打ちにいってとらえられたんやろうけど、プロの球はワンランク上で、打ちにいけばいくほど攻めも厳しくなってくる。要するに、1打席に1球あるかないかの甘い球をとらえられるかの勝負になってくる。そこをどこまで理解できるかや。

 なんでも振るんやなくて、タイミングだけはしっかり取って、コースいっぱいに来たら『ごめんなさい』でええんや。厳しいラインからひとつ甘く入ってくるボールをひたすら待って、それが来た時には絶対にとらえる。そこを目指さなあかんのや」

 門田はその割り切りを徹底していた。

「オレはストライクゾーンを9分割して、外の3つは『ごめんなさい』で終わるのがようあった。とくに左ピッチャーのボールがアウトコースに決まったらしゃあない。状況によってそこを狙いにいく時もあったけど、考え方としたら難しいボールを打とうとするより、打てるコースに来た球を確実にとらえる技術を上げる。

 打てないコースを頑張って打ったとして(打率が)3割4分、5分になるか? それよりも自分が得意なコースを確実に仕留めたほうが打率は上がるし、ホームランも増える。簡単な話なんやろうけど、ほとんどの選手は難しいコースを打とうと必死になって、崩れていきよる。こういうことを指導者はわかってほしいんや」

 話を聞いていると、佐藤に伝えたくなる金言が次から次へと飛び出してくる。それを門田に伝えると、こう返ってきた。

「それなりに苦しい思いをしてきたヤツは、何かしらの財産や魔法の杖を持っとるんや。それに昔は、19番(野村克也)みたいにネチネチ言う姑みたいなのがどこの世界にもおって、聞かされるほうは鬱になりそうになりながら、それを聞くことで一流の教えが受け継がれていったところもあったんや」

 本来なら門田も、いま頃は堂々たる姑になっていても不思議ではないはずだが......。

「オレにはそうした場がなかったということや。プロ野球の世界は監督・コーチは友だちみたいなのばかりや。オレはおっさん(野村克也)の小言も散々聞かされてきたし、姑になって言う権利はあるはずやけどな(笑)」

 レジェンドの思いが、若き大砲に届く日はやってくるのだろうか。

つづく

(=敬称略)

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