「オレが23年かけてできなかったことを...」。門田博光は阪神・佐藤輝明に嫉妬した
「何でルーキーができたことをワシができんかったんや!」
5月28日の夜、門田博光は手にしていた缶ビールを投げつけそうな勢いで、自宅のテレビ画面に向かって吠えていた。
門田の視線の先には、両手を広げ、バリー・ボンズのようにポーズを決めたルーキーが気持ちよさそうにダイヤモンドを回り始めるところだった。
歴代3位の567本塁打を放った門田博光(写真右)だが、1試合3本塁打は一度もなかった メットライフドームで行なわれた西武と阪神との交流戦の9回表。阪神のルーキー・佐藤輝明がこの日3本目となるアーチをライトスタンドに打ち込んだ。試合はこの1本で勝ち越した阪神が勝利し、両リーグ最速となる30勝を挙げた。
長嶋茂雄以来、63年ぶりとなるルーキーの1試合3本塁打を記録した佐藤は、この時点で13本塁打となり、岡本和真(巨人)、村上宗隆(ヤクルト)と並び、セ・リーグ本塁打王争いのトップに立った。
しかし、門田にとって本塁打王争いなどどうでもいいことだった。ルーキーが1試合で3本のホームランを打ったということが問題だったのだ。
「ビールを飲みながら気分よう試合を見とったら1本目が出て、『おぉ、久しぶりや』と思ってたら2本目や。インコース寄りの甘い球をしっかりとらえたナイスホームランや。そこまではよかった。それが9回に3本目が出て『おい、ちょっと待てよ』となったんや。なんでオレが23年かけてできんかったことを、まだ2カ月しか戦ってないルーキーができたんやと......。だんだん自分に腹が立ってきて、ビールがいっぺんにまずくなったんや」
門田は現役時代、やり残したと思うことが2つあるという。1つは日本シリーズの最優秀選手に贈られていた副賞のクラウン(トヨタ)を手にできなかったこと。
そしてもうひとつが1試合に3本以上のホームランを打てなかったことだ。その1つをルーキーの佐藤がやってのけたことで、門田の心は大いにざわついた。
バットを置いて30年近く経ってもなお、突然、闘争本能に火がつくのはいかにも門田らしいが、佐藤については早くから興味を示していた。
オープン戦が始まる頃には、「いま興味があるのはこの子だけや。今年はこの子を追って楽しませてもらうわ」と口にしていた。
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