斎藤佑樹「野球をやめなきゃいけないのか」。引退が頭をよぎり、重要な選択を迫られた (5ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Ichikawa Mitsuharu(Hikaru Studio)

キャンプでも精力的に投げ込みを行なっていた斎藤佑樹キャンプでも精力的に投げ込みを行なっていた斎藤佑樹 つまりPRP療法の効果を増強するために、複数の治療を並立して施すというのが、今回、斎藤が受けた新しい治療法だ。◯◯式といった名前はまだなく、エビデンスも十分ではない。このプログラムで靱帯断裂から復帰を目指したプロ野球選手は過去にいない。しかし、斎藤はだからこそこの治療法を選んだ。結果はどうあれ、このプロセスが次の世代に役立つと考えたからだ。

 そうやって治療によって靭帯の再生を活性化させながら、リハビリに関しては、ある程度の修復が認められた時点で出力を上げずにヒジへ負荷をかけるメニューを組んで、靱帯のさらなる再生を促す。

 キャンプで100キロの球速から始めた200球のピッチングにはそういう意図があり、そこには投げる刺激によって靱帯の再生を促すと同時に、これまでのフォームを見直して理想のイメージに近づけようという狙いも含まれていた。腕の振りではなく体幹の回旋で球速を上げるために、力感なく投げることを意識する......それでいて、140キロを投げられる。この流れが、今の斎藤が描く復帰までの道筋だ。

「この新しい治療法で、2カ月で治ったアマチュア選手もいると聞きました。どんなにかかっても6カ月で靭帯はくっついてくれるというので、だったらその方法でやってみようと思ったんです。トミー・ジョン手術を受けてしまえば投げるまでに1年以上もかかりますし、それならもう野球は続けられない。この方法にかけるしかありませんでした」

 いざ、進む方向を決めた斎藤はどこまでも前向きだ。こういう時、斎藤は考えることはあってもくよくよと思い悩むことはない。迷うことはあっても、決して投げ出さない。まして靱帯が切れているからと、自暴自棄になったり......?

「自暴自棄? ないない(笑)」

── ショックを受けて、しばらく何も考えられないとか......。

「そんなの、あるわけないじゃないですか」

── お酒を呑んで荒れるとか......。

「まったくないですね。だって、意味ない時間ですもん」

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