嶋基宏&鉄平が明かす3.11の葛藤と伝説スピーチの裏側。星野仙一監督に直談判もした (4ページ目)
野球と震災──決して天秤にかけられない思いに苦しんできた嶋と何度も話し合い、言動を間近で見てきた鉄平も唸った会心の一発だった。
「嶋は真面目な性格なんで......野球しかできない状況のなか、そうした想いが募っていったというのはあると思います。そんななか、決してホームランバッターじゃない嶋が開幕戦で決勝ホームランを打つわけですよ。あの勝負強さ、気持ちの強さに、鳥肌が立ちました。カッコよかったです」
ともにチームの中心的立場として歩んできた鉄平にとって、嶋の"忘れられない言葉"があるという。
本拠地開幕戦となった4月29日。この日も試合前セレモニーで、嶋はスピーチをした。
<誰かのために戦う人間は強い>
言葉に力を宿し、「絶対に見せましょう、東北の底力を!」と再度結んだ。
鉄平が言う。
「あの本拠地開幕戦を経て、震災を背負うというか、本当に強くなった嶋を見ました。何があっても動じなくなりましたし、堂々と振る舞えるようになったというか......人間的にすごくたくましくなりましたね」
嶋自身もこの日を境に「野球」と真正面から向き合えるようになったと話す。
「僕らは『お客さんは入らないだろう』と思っていました。野球観戦より、自分たちが生活していくことのほうが大変でしたから。それなのに、開門前から列ができていて、球場が超満員になった。そこから『野球で勇気づけたい。東北のみんなもそれを待っているんじゃないか』って感じました」
復興の旗手、そして「プロ野球の顔」とも呼べる存在となった嶋は、翌年に史上最年少でプロ野球選手会会長に就任。そして2013年には球団初の日本一に輝くなど、東北の人々を勇気づけた。
「野球を見てくれた被災者の方たちに『今日、見てよかったね』って瞬間を感じてもらいたい。野球が前向きに生きていくための力になればいいなって。これからもみなさんの想いを背負って、全力で頑張っていきます」
未曾有の大震災から10年。鉄平は2015年シーズンを最後に現役引退し、現在は楽天の一軍打撃コーチとして後進の育成にあたっている。嶋は楽天を離れ、ヤクルトで再起を期そうとしている。立場、住む場所、ユニフォームは変わっても、仙台への愛着、東北への思いは尽きることがない。
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