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嶋基宏&鉄平が明かす3.11の葛藤と伝説スピーチの裏側。星野仙一監督に直談判もした (3ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Sankei Visual

 100%の正解がないことはわかっているが、それでも答えを模索する日々。鉄平は「あの時の気持ちを言葉で表現するのは難しい」と言った。

 そんななか、4月2日に札幌ドームで開催されたチャリティーマッチの試合前、選手を代表して行なった嶋のスピーチは人々の胸を打った。

<今、スポーツの域を超えた「野球の真価」が問われています。見せましょう、野球の底力を。見せましょう、野球選手の底力を。見せましょう、野球ファンの底力を>

 嶋があの名シーンを回想する。

「正直、あそこまで取り上げていただけるとは思っていなかったので......申し訳ないですけど、深くは考えていませんでした。ただ、まだ仙台に帰っていませんでしたし、自分たちの目で被災地を見ていなかった。マスコミを通じて選手の想いをみなさんに話せる場面が少なかったので、『自分たちの気持ちを伝えられたらいいな』とは思っていました」

 内容もさることながら、10年経った今でも「底力」が強い響きを持っているのは、嶋の言葉に想いが宿っていたからではないだろうか。

「伝説的なスピーチでしたね」

 鉄平がしみじみと語る。

「スピーチの前はド緊張でしたけど(笑)。嶋らしく、強い言葉でしたよね。僕も鳥肌が立ちました。すごく魂がこもっていたし、響きました」

 このスピーチで"復興のシンボル"となった嶋だが、葛藤は続いていた。

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 震災後、初めて東北へ帰還できた4月7日、山形空港からバスに乗り、仙台へ向かった。バスの窓に映るのは、景色などではなかった。いつも当たり前のように眺めていた建物が消えている。

 翌日、嶋たちが訪問した東松島市は、通常なら仙台から30分で行けるのだが2時間近くを費やした。この地も瓦礫の山で、砂塵が待っていた。鉄平たちが向かった女川町は津波によって大打撃を受け、倒壊したビルの上に漁船が乗っていた。そんな非日常的な光景を目の当たりにした選手たちは言葉を失った。

「本当に今、野球をしていいのか......」

 それでも時間だけが過ぎていく。そして本来のスケジュールから18日後の4月12日に行なわれたロッテとの開幕戦。なんと嶋は決勝本塁打を放ち、敵地であるロッテファンも総立ちにさせた。

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