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敵将をこんなに意識するものか。
野村克也を西武黄金時代のナインが語る (2ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi
  • photo by Sankei Visual

【森と野村の下でプレーした辻発彦と渡辺久信】

 およそ3年にわたる取材の集大成がいよいよ発売される今、取材ノートを整理していると、西武ナインたちによる「野村評」が実に多彩で、あらためて「野村克也」という稀代の名将のすごみや深さが浮かび上がってくる。相手チームからも存在を強く意識される指揮官、それが野村克也だった。

 そこで、『詰むや、詰まざるや』では書き切れなかったこと、紙幅の都合でボツにした箇所を中心に、「西武ナインから見た野村克也」というテーマで、これから数回にわたって筆を進めていきたいと思う。

 取材したメンバーの中には、前述の工藤公康の他にも、同じく現役の西武監督である辻発彦(「辻」は本来1点しんにょう)がいる。あるいは、元西武監督で日本一にも輝いた渡辺久信(現・西武GM)がいる。辻と渡辺は、後に野村監督時代のヤクルトに移籍しているため、両者は「森野球」と「野村野球」を知る男たちである。辻は言う。

「森監督はピッチャーを中心にしたディフェンス重視の野球だったけど、野村さんは自身が大打者だっただけに、打つことを重視した野球でしたね。『カウントノースリー(スリーボール・ノーストライク)からでも打て!』と言われたのは野村さんが初めてでした。それでも、池山(隆寛)や古田(敦也)がヤマを張ってフルスイングしているのを見た時、『あぁ、これがID野球なのか』と思いました」

 一方の渡辺は次のように野村を評する。

「野村さんと森さんは、よく『似た者同士だ』って言われるけど、両チームでプレーした自分から見たらまったく別の監督ですよ。野村さんはしっかりと言葉で納得させてくれる監督でした。カウント別の投手心理、打者心理をきちんと言葉で説明してくれました。僕だってプロ野球選手だから、ある程度は理解していますよ。でも、あらためて言葉で説明されると、『あぁ、この人すごいな』と素直に思えましたね」

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