八重樫幸雄はヤクルトスカウト時代に苦悩。「本当は話したくない」 (2ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi
  • photo by Sankei Visual

――では、「なんであんな選手を獲ったんだ」という批判に対しては、どう反論しますか?

八重樫 いやいや、別に反論するつもりはないですよ。プロは結果がすべての世界だし、活躍できないで辞めていったのは事実ですから。でも、そこにはプロ入り後に致命的な故障をしたとか、指導者との間で指導方針にブレがあったとか、いろいろな事情があります。いい素質を持っているのに、本人の問題で結果が残せなかった例もありますよ。まぁ、そういう性格を見抜けなかったこちらにも問題はありますけど......。

――先ほどお話に出た「暗黙の了解」というのは、どのようなことですか?

八重樫 たとえばスカウトになったばかりの頃のことだけど、「直接会話していいのは監督だけ」という決まりを聞いていたから、選手に声をかけることはしないで、愚直にそれを守り続けていた。だけど、どうやら他のチームのスカウトは直接、選手たちと話をしているらしいということがわかったんだよね。そういうことは誰も教えてくれないから、しばらくしてから気づいたんだけど。

――八重樫さんの職業倫理感はもちろん理解できるけれど、時には清濁併せ呑むようなしたたかさや狡(ずる)さも、スカウトに必要なのでは?

八重樫 うーん、そうなのかもしれないけど、僕はうまくできなかったな。どことは言わないけど、チームによっては選手本人だけでなく、親にもアプローチしているところもあったらしいからなぁ......。

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