野村克也が仕掛けた「インハイの幻影」。
イチローを封じた配球の真髄 (3ページ目)
シーズン中、イチローがヒットを打ったコースと凡打に終わったコース、ファウルしたコースと見逃したコース。打ったボールはストレートだったのか、そのスピードは145キロ以上だったのか。変化球を打ったとしたらどの球種だったか。どのコースのどんなボールをどの方向へ打っているのか......今となっては当たり前になっているこうしたバッターの傾向を、色分けして見やすいチャートにしたデータをいち早く入手していたのである。
結果、野村はイチローに有効な対策をこんなふうにまとめた。
・高めのボールゾーンの速い球。
・外角低めいっぱいの変化球。
・内角の速い変化球。
・内角低めの落ちる球。
このなかに「インハイ」という文言はない。インハイへ正確に投げられれば、どのバッターだって嫌がるのだが、そこへ投げ切れなくて甘くなるから、インハイは諸刃の剣なのだ。そこで野村は「インハイ、インハイ」と連呼することで、その先にある、まだ誰にも気づかれていなかったイチローの弱点を突こうとしていた。
それが、パワー系のピッチャーが投じるアウトハイのボールゾーンの速い球であり、技巧派タイプが投げ分ける内外角いっぱいの低めへの変化球だったのだ。
そして古田は、ビデオとデータでシーズン中のイチローの姿を頭に叩き込み、実戦に入ってからはバッターボックスでのイチローの動きを徹底的に観察し続けた。古田はこうも言った。
「イチローくんは、狙い球によって体重のかけ方が変わるんです。ほとんど同じ姿勢なんですけど、右足のカカトに体重をかけているときと、爪先の方に体重をかけているときがある。だからずっと右足ばっかり見て、内外角のどっちに意識があるのかを探ってました」
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