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野村克也が仕掛けた「インハイの幻影」。
イチローを封じた配球の真髄 (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Kyodo News

 古田は日本シリーズの前になると、狭いホテルの部屋に閉じこもって、山積みになったビデオをひたすら見続けた。ID野球の下で野村はキャッチャーに厳しい課外授業を義務づけていたのである。古田が続ける。

「紙の上でスコアやデータを見ていても、わからないことが多すぎるんです。たとえばノースリーでまっすぐを放らせたら打ってきた。でも、その打ち方はまっすぐを待っていたのか、カーブを待っていてまっすぐに詰まったのか、それとも泳いで打ったのか......そうやって観察しておかないと、データだけではバッターを解釈することはできません」

 1995年、リーグ制覇を成し遂げたヤクルトは、日本シリーズでオリックスと激突した。ヤクルトを支えたのが古田なら、当時のオリックスの原動力はイチローだ。「イチロー対古田」という、バッター対キャッチャーの図式で見所が語られたこの年の日本シリーズ、監督の野村とキャッチャーの古田は、二人三脚でイチローを封じ込めることに成功したのである。

 まず、先制攻撃を仕掛けたのは野村だった。シリーズが始まる前、マスコミを通じてイチローをこう挑発したのだ。

「イチローを攻めるには、内角に始まり内角に終わる。いかにインハイを攻め切れるか」

「あの打ち方、バッターボックスから足が出とるんと違うか。完全に出たらアウトやろ」

 こうしてイチローにインハイへの意識を刷り込むとともに、野村は当時としては画期的なデータを秘かに収集していた。

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